Electro-Magnetism
片山泰男 (Yasuo Katayama)
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はじめに
1. 力線の表現
2. クーロン力から電場へ
3. ベクトル場の数学
4. Maxwell 方程式とポテンシャル
5. ローレンツ力と座標変換
6. 電線の側の電荷
7. 磁場の発生源の速度
8. 馬蹄形磁石
9. 電場をみるために
10. rot E = 0
11. 場の概念と相対運動の概念
12. 電流ループの飛行
13. 行き帰りする定期航路
14. 飛んでくる電線
15. 単極誘導
16. 3 要素の回転
17. 回転磁石の近辺の電荷は力を受けるか
18. どう解釈するのか?
19. *注
20. 磁場の源の速度が電場の効果をもたらすシナリオ
21. 電磁場に回転相対のない証拠
22. 回転系の電磁場
23. 回転系の電場の発散
24. 回転系の磁場の発散
25. 回転系の電場の回転
26. 回転系の磁場の回転
27. γの効果
28. 地球の磁場の原因
29. 公転軌道上の電場
30. ファラデー板の磁場
はじめに
電場と磁場は、同じものの別の側面である。ローレンツ変換でそれらは互いに変換される。 ある系で磁場があるとみる空間の一点は、別の系では電場とみる。 それらは慣性系の間の話であり、回転系などの非慣性系の話ではない。磁場中を飛んでいる電荷は、電場を見なくては力を受けることができないから、 電荷に並進する系では、磁場を電場とみるという説明は、非常に基本的で明確である。 その系では、電荷は静止しているから、電場以外に力をうける理由が無い。 これには相対論の力の変換が係わり、力の大きさは変化するが、 力の存在の有無は明確である。 だから電荷に並進する系において、磁場は電場に変換されなくてはならない。
F = q (E + v x B)
というローレンツ力の式は、異常に基本的、汎用的な式である。 電磁場のローレンツ変換は、それを壊さずに、それを満たすように作られたといってもよい。
このローレンツ力の式は、回転系のコリオリ場の中を飛んでいる質量が、 速度に比例して力を受けるという形と、全く同じ形態を取る。 重力加速度 g、回転系の角速度Ωの中の質量 m の受ける力は、
F= m (g + v x Ω)
と書ける。そう磁場とは、電荷にとっての系の回転である。 ところがその場合に、そのような説明をしただろうか。 コリオリ場と遠心力の場は同じものの別の側面であるとは言わない(*)。 それらがローレンツ変換されるとは言わない。 それはなぜだろうか。片方はニュートン力学であり、もう一方は電磁気である。 それらは、形態が似ているだけで本質的に関係のないものだろうか。
(*) 全く性質が違うように見える "遠心力とコリオリの力"は、同じものの別の側面である。 遠心力は、回転系の静止点の速度 v と角速度 w との外積 v x w、コリオリ力は、物体の回転系内速度 V と角速度 w との外積 2V x w、 両者の和は、回転系の角速度 w との外積 (v+2V) x w である。(v+V) は、回転系の原点に対する物体の速度で自由質点では場所によらずに一定である。 回転系の原点の取り方の任意性から、回転系の原点を物体の位置にとれば、コリオリ力だけにみえる。 系内速度 V を回転系の原点に加算すると、その物体の受ける力すべてが遠心力になる。
明らかに磁場は、力学の回転座標系でのコリオリ力に相当する。それなのに、 回転系と電磁気の間には、ほとんど説明がない。静止系で電場とみるものを、 回転系で磁場とみるわけではなく、並進速度が磁場を電場と見させる。 これは、ばかげた疑問を投げているのかもしれない。こう言うと、だれかが反論するだろう。 "マイナスの電荷は逆の系の回転を見ているのではないですか" と。そのとおり、 磁場は電荷にとっての系の回転であり、質量に対応する電荷の大きさには比例しないが、 符号には関係する。
このように回転と磁場との間には、疑問が渦巻いている。 これこそ電磁気の醍醐味である。もやもやした疑問は、はっきりさせる値打ちがある。
もうひとつの大きな疑問は、ローレンツ変換である。ローレンツ変換は、 慣性系に限定した系の間に成立して、その他の系では、並進速度ベクトル v だけを使っても間違いとなるのかもしれない。なぜなら、 慣性系間でしか確認されてないものを、拡張して用いるのだから。 ローレンツ変換の式に速度以外の項をもたないからといって加速度や、 回転が関係がないと思うのは正しいのだろうか。どこまで正しいのだろうか。 なぜかなら、それは、慣性系間の法則であり、加速度や回転の無い場合の式だからである。 ローレンツ変換に加速度や、系の回転が出てないのは、 それがない場合に成り立つ式だからであるという、 恐ろしく基本的なことを考えたことがあっただろうか。
双子のパラドックスでは、特殊相対論は、加速度運動する粒子を完全に扱うとしていた。 系が慣性系であることが重要でありその中の運動は任意のものが扱えるのである。 しかし、そうだろうか、もう一度疑ってみよう。微細な粒子にも小さな座標系が付着している。 固有時とは、その小さな座標系の時間軸の問題である。 特殊相対論は、加速度運動する座標系を扱っても大丈夫なのだろうか。 加速度系なり、回転系に、並進慣性系の速度を使ったローレンツ変換を使うことは、 間違いをしないだろうか。(これには、相対論の"時計の公準"の章を参照。)
さらには、加速度系、回転系では、マックスウエル方程式が成り立たず、 その他の不思議な現象が起きるだろうという。 回転系での電磁気の方程式は、電磁気の教科書であまり見たことがない。 回転系で電磁気の方程式が狂うというなら、回転系での電磁気の式を明確に示すべきである。 それほど難しくはないだろう。もっといえば、回転系のような非慣性系では、 静止系での定義に従った電場と磁場が定義できないというのかもしれない。 電場は、系に静止した電荷が受ける力を電荷で割ったものであり、 磁場は系に速度を持った電荷が速度に比例する力を速度と磁場の外積方向に受けるものである。 回転系では、それがどうして定義できないのだろうか。
電磁気の分かりにくさは、そういう、基本的な疑問にだれも答えないからである。 論争のいくつかは、そういう、基本的な問題を理解しないからおきる。 回転と磁場の説明から単極誘導、モノポールの存在否定など困難な問題、 説明を明確にしたいものがたくさんある。これらの基本的な疑問を解いていくのが、 この章の方針である。
1. 力線の表現
電場と磁場を使う時代になっても、頻繁に顔をのぞかせるのが電気力線や磁力線の話、 とくに磁力線の議論である。ここでは、力線による表現について考える。図 1. 力線の表現
力線は、かなり正確に電場、磁場の性質を体現している。その張力は、異種電荷のクーロン引力を上手に表している。 ただ、同種電荷による斥力を力線間の反発力で説明するのは、かなり苦しい。
力線の方向が、場の方向を表し、力線の密度がベクトルの大きさを表す。場を線で表現するのは、場が連続的に変化する ことを矢印を多数並べるよりも上手に表す。力線が途中の空間で発生消滅、枝分かれ合流がないのは、電場の発散の源が 電荷であること、磁力線が一巡するのは、磁場に発散の源がないことを表している。また、任意の閉曲面を横切る力線の 総数が内部の電荷を表すというのは、ガウスの定理そのものである。
さて、"磁力線を横切るときに電場をみる。"というファラデーの表現は、v x B の表現というよりも、 さらに進んで、相対論の電磁場のローレンツ変換を意識したものであるといってよい。
外積 x は、クロスと読み、線に交差する、線を横切るという言葉は、ぴったりしている。 v x B は、v と B の外積 (ベクトル積) であり両方のベクトルに垂直で、v と B を同始点にして、右ネジを v の矢印から B の矢印 へ回すときの進行方向をもつ。大きさは、v から B への角度をΘとして、平行四辺形の面積 |v||B|sinΘをもつ。両者が垂直のとき積である。 外積のベクトル表示は一意的だが、成分表示は右手系と左手系で異なる。右手系 (x,y,z を右手の親指からあてる) の成分表示を示す。例えば、v が x 方向、B が y 方向を向いているとき v x B は、z 方向を向いた |v||B| の大きさをもつ。
v x B = ( v_y B_z - v_z B_y, v_z B_x - v_x B_z, v_x B_y - v_y B_x )
ファラデーは、 "磁力線を横切るときに電場をみる。" と対称な "電気力線を横切るときに磁場をみる" という必要は無かったのだろうか。 そこまで電磁場に対称の予想はなかっただろうし、これは、電荷の運動が磁場を発生することを示したローランドの実験まで待たされる のであろう。しかも、力を受ける見る主体は、電荷でなく存在しない磁荷であるから、なおさらである。 もしも、磁荷 m が存在するなら、電磁場でうける力は、 F = m(B - v x E) であるし、それがみる磁場は、B' = γ(B - v x E) であると 電磁場のローレンツ変換は言う。このように、磁力線を切ることと電気力線を切ることは対称であり、磁力線だけ特別なことは何もない。
力線表現は、静的な場を(定性的に)表すのには、うまく行くようだが、動的な場をうまく表現するとは思えない。 たとえば、磁場の時間変化は、磁力線を切ることとは関係がないのにそう勘違いさせる。 磁力線密度の変化は、磁石配置を変化させないと起こりそうにないので、磁力線と電気力線との関係を考えることは難しい。 力線は、場の発散をとらえるには有効な表現であった。そして静電場、静磁場のような渦の無いの場を表現するにはいいが、 時間変化や、場の回転(渦)を表現することはできない。
ファインマンは言う。"力線による場の図示化は有効だが、実在的にとらえすぎる危険がある。 ある系で力線が止まっていて、別の系ではその線を横切るかどうかは確かでない。 その系ではその力線は無いかもしれない。"
"いまさら電磁気学?"の青野修氏は、"磁力線の速度" という言葉を使う。 磁力線を切るときに電場をみるなら、磁力線がどれほど交差しているかを示す場の側の速度という言葉である。 (それに対して、場に速度などないと否定するのが、"電磁気学を考える"の今井功氏である。)
電場と磁場が共存し直交するとき、別のある速度の慣性系では磁場だけになる。 その系に静止した電荷は力を受けない。その系の速度を "磁力線の速度" という。 その導出は容易で、ローレンツ力= 0 の式の両辺に B を外積して求まる。 その系で力を受けない電荷は、この系でも力を受けないからである。
E + v x B = 0
B x (v x B)= B x (-E)
これに A x (B x C)= (A・C)B -(A・B)C と v・B = 0 を用いて、
v = E x B / B^2
この式は、場の運動量 g= ε_0 E x B を、磁場のエネルギーε_0 c^2 B^2/2 の 2 倍で割ったものとなり、 電場は関係ないのかという気はするが、速度の概念ではある。 (場の運動量を場のエネルギー (E^2 + B^2)/2 で割った速度は、方向は同じでも大きさが違う。)
その速度では場と電荷とが力のやりとりがない。それより速度がわずか少ないと電場の影響が残り、多すぎると逆の電場が見えるので、 電場とは、磁力線の速度と電荷との速度の差によるひきずり現象かもしれないと思わせるが、 それは原因と結果を逆にしているだけだろう。磁力線の速度は、電場を大きくすれば大きくなるが、 速度は光速限界を持ち、E = B となると純磁気的系をもたなくなる。 純磁気的系をもつのは、E < B のときで、この速度は、c E / B となり、 B < E のときは純電気的な系を速度 c B / E にもつことが、 ランダウ・リフシッツの"場の古典論"にある。
2. クーロン力から電場へ
静止した電荷同士の間のクーロン力は、両者を結ぶ直線上の向きをもち、 両者の電荷の積に比例し距離の 2 乗に反比例する大きさをもつ。 電荷 1 の受ける力 F_1 と電荷 2 の受ける力 F_2 とは大きさが等しく、方向が逆であり、 作用反作用の関係にある。 F_1= 1/(4πε_0) q_1 q_2 e_{12}/ r_{12}^2 = -F_2
4πε_0 = 10^{-7} * c^2 = 9.0 * 10^9
いまもし第三番目の電荷 3 があっても、2 と 3 からの力は、2 からの力に 3 からの力を 加算したものであるという事実がある。 この力の重ね合わせは、クーロン力が相手の電荷量に比例しなければありえない。 2, 3 が同じ位置にある場合に電荷量を加算して一つの電荷とすることができるためである。
F_{1,23}= F_{1,2} + F_{1,3}
その反作用もその大きさであるためには、クーロン力は、受ける側の電荷量にも比例する必要がある。 それは実際正しく、この事実が場の概念を生みだすのである。
クーロン力を受ける電荷量で割って電場とし、場(空間の一点)の性質とする。 電場は、その位置に単位電荷を置けば受けるであろうクーロン力である。 電場は相手側の電荷だけによる。 クーロン力に加算が成り立つことから、電場も線形であり加算ができる存在になる。 クーロン力から電場へという概念の変化によって、不可解な遠隔力は、場との間の近接力となった。 それは、空間の物体化の始まりでもあった。
F_1 = q_1 E
E = 1/(4πε_0) q_2 e_{12} / r_{12}^2
クーロン力の式は速度を含まず、ニュートンの万有引力風の式であるが、静止電荷にしか適用できず、動く電荷には適用できない。 また、座標系の変換に耐えられない式である。式に速度を含まずに動く電荷に適用できないのは、速度に関係がないと思わせるから、 一種の欠陥式である。ローレンツ力のように式に速度を含むのも異様なものだが、速度を含まないからといって、ガリレイ変換又は ローレンツ変換に耐えるという保証があるわけではない。
それに対して、ローレンツ力は、静止電荷ではクーロン力からの電場の式 F= q E と等しいが、電荷が速度 v をもって動くとき 磁場 (これも動く電荷だけが生み出すものだが) から受ける力 v x B の項が付け加わる。
F = q ( E + v x B )
ローレンツ力の中の電場 E と磁場 B は、座標系の変換に耐える。電磁場のローレンツ変換が明確に定義され電磁場は相互に変換される。 ローレンツ力の式は速度を含み、変換に耐えるはずはないと思うかもしれないが、これが逆に電磁場のローレンツ変換の式を導くのである。 電磁場が並進の座標変換にあわせて姿を変えるからである。磁場が電場に姿を変えることを使うとどの系でも成り立つ式なのである。 誰もが、この式に最初に出会ったときに、この速度をもった式を不思議に思ったと思う。この速度は、何に対する速度なのか、測定系に 対する速度であろうが、本当は、何に対する速度だろうか、そこに相対性は、あるのかと。
3. ベクトル場の数学
電場は、力のベクトルから電荷を取り除いた場の性質として作られたベクトルであるため、 空間の各点に連続的に存在する、方向と大きさをもつ"ベクトル場"である。それに対して、空気中の温度のような方向をもたない大きさだけが空間に分布しているのを "スカラー場"という。また電場は、電荷が静止していない場合、時間的にも変動する。 磁場もこれと同様、大きさと方向を持った空間に分布するベクトル場である。
電磁気にはこのようなスカラー場、ベクトル場の数学が使用される。 ベクトル場には、div(発散)と rot(回転)という 2 種の空間的微分演算が大きな役割をする。
div E= dE_x/dx + dE_y/dy + dE_z/dz = ρ
ベクトル E の各成分の成分方向の微分の和である div E はスカラー場である。 発散は、正が流れの源(湧き出し)を、負が出口(吐き出し)を表す。
電場の発散 div E は、その点の電荷密度ρ(SI 単位では、ρ/ε_0)である。 任意の閉曲面 s を貫く電場 E の面の法線 n 方向成分の総量(面積分)は、 体積 v 中の電場の発散 div E の総量(体積分)(電荷量)に一致するという、ガウス(Gauss)の定理がある。
∫_s E・n ds = ∫_v div E dv
発散の定義とガウスの定理とは、次のように密接に結合した概念である。 図 2. の左図の微小な立方体において、x,y 面でのベクトル A の z 成分 A_z をその面積 dxdy だけ積分する。 こちら側の面の分から dz だけ離れた裏面の分を引く。同様な、y,z 面、z,x 面の減算も加算すると、 次の式となるが、これは、体積 dxdydz と div A との積となる。
(A_x(x+dx,y,z)-A_x(x,y,z))dydz + (A_y(x,y+dy,z)-A_y(x,y,z))dzdx + (A_z(x,y,z+dz)-A_z(x,y,z))dxdy
= dxdydz ( dA_x/dx + dA_y/dy + dA_z/dz )
図 2. ベクトルの発散と回転
前からの風に影響を受けない迎角 0 度の羽をもつ微小な風車を考え、 任意の点において空気の回転を調べる。静電場のように渦のないベクトルもあるが、 風車の回転は、ある方向に向けたときが一番大きいだろう。渦は方向と大きさを持つ。
回転 rot E (curl E) はベクトルであり、その点の流れの循環、渦を表す。 渦の向きに右ネジを回して進む方向と、渦の大きさの長さをもつ。
rot E = ( dE_z/dy - dE_y/dz, dE_x/dz - dE_z/dx, dE_y/dx - dE_x/dy )
任意の閉曲線 c の曲線に沿うベクトルの線積分は、c が囲む任意の面 s 内のベクトル の回転の法線成分の面積分に等しいという、ストークス(Stokes)の定理がある。
∫_c E・dc = ∫_s rot E・dn
回転の定義とストークスの定理とは、やはり密接に結合した概念である。 図 2. の右図の微小な正方形で、面内ベクトル A と 4 辺の矢印との内積の線積分を一巡すると、 この式は、面積 dxdy と (rot A)_z の積となる。
∫_c A・x = A_x(x,y) dx + A_y(x+dx,y) dy - A_x (x,y+dy) dx - A_y (x,y) dy
= (A_x(x,y)-A_x(x,y+dy))dx + (A_y(x+dx,y)-A_y(x,y))dy
= dxdy ( dA_y/dx - dA_x/dy )
スカラー場の勾配 (gradient) は、その空間微分を成分とするベクトルである。 時間的に変動しない場では、電場はスカラーポテンシャル(電位)の下り勾配として表される。
E= -grad φ = -∇φ
grad φ= (dφ/dx, dφ/dy, dφ/dz)= ∇φ
∇は、デル又はナブラと読む。grad の記号の代わりに使う。∇= (d/dx, d/dy, d/dz) オペレータ(演算子)をベクトルのように考え、 div は、∇との内積であり、∇・と書き、rot は∇との外積、∇x とも書く。
ρ= - ∇・∇φ
(∇・∇)は、∇^2 又はΔと書き、スカラーの勾配の発散で、スカラーを与える。Δ= d^2/dx^2 + d^2/dy^2 + d^2/dz^2 は、ラプラス (Laplace) の演算子、ラプラシアンという。Δφ= -ρ をポアソン (Poisson) の方程式、真空中では ρ= 0 から Δφ= 0 をラプラスの方程式という。 スカラーポテンシャル φ の空間的 2 階微分の負(上に凸)が電荷密度ρという、静的な2階の微分方程式である。 (Δφ= ρ と書くときはΔの定義が違う。動的な電荷密度やポテンシャルを記述するには、□φ= -ρが必要。)
参考文献を記述する方法
磁場では、電場おける電荷に相当する磁荷(磁気単極子、モノポール)は存在しない。 だから電荷のクーロンの法則に当たるもの、電場と電荷の関係に相当するものも考えない。
磁場は電流によっても作られることが分かり(アンペールの法則)、
∫_c B・dc = ∫_s i・dn
面 s 内の磁場の時間的変化が周 c 上の起電力を生むことも発見された(ファラデーの法則)。
∫_c E・dc = -∫_s dB/dt・dn
変動する電流(交流)を使って、磁場を介して電気エネルギーを変圧して伝達する、 実用的な電気工学が生まれた。 これらの二つの式は、ストークスの定理を使って次の微分型の式になる。
rot B = i
rot E = -dB/dt
4. Maxwell 方程式とポテンシャル
ベクトル場としての電場と磁場の満たす微分方程式が Maxwell 方程式である。ある点の電磁場は、Maxwell 方程式で記述される。 それは、2 組の式からできている。div B = 0, rot E = -dB/dt
磁場の発散がなく、電場の回転が磁場の時間変化の符号反転である。そして、最初の組と電場と磁場に対称なつぎの第2組をもつ。
div E = ρ, rot B = dE/dt + i
電場の発散は電荷であり、磁場の回転が電場の時間変化と電流密度の和である。rot B が電流密度であること(rot B = i) は、 アンペールの発見したものであるが、電場の時間変化を付け加えたのは Maxwell である。この電場の時間変化は、通常大きくない ので発見しにくい。電流の経路の一部にコンデンサがある場合、空隙の電場の時間変化が電流と同じ働きをする。
両組の電場と磁場の対称性は、真空中の電磁場は、完全に対称であるということができる。しかし、物質を含めた電磁場は、 残念ながら完全でなく、第2組の電荷密度と電流密度に対応する "磁荷"と"磁流"とが第1組では空席である。 しかし注意するなら、磁荷が存在しないから div B= 0 とし、磁流がないため、その場所を空けているのではない。 空席は埋められるための空席ではなく、
B = rot A
とするベクトルポテンシャル A を考え、両辺の div をとると、ベクトルの rot の div は常に 0 であるから div B = 0 であり、 時間的に変動する電場は、
E = -grad φ - 1/c dA/dt
なるスカラーポテンシャルφを考え、両辺の rot をとると、スカラーの grad の rot は常に 0 であるから、rot E = -dB/dt である。 そのため、第2組とは違って第1組は、ポテンシャルの実在を仮定するとき数学的な恒等式となり、磁荷の非存在も同時に表わす。 つまり、磁荷とポテンシャルの実在は、排他的関係をもつ。
Maxwell 方程式は電磁場の満たす微分方程式であり、初期条件と、境界条件を与えるとき、 解がえられる性質のものである。しかしそれは、慣性系の上でのことであり、 慣性系以外の系、例えば、回転系での電磁場についてなにも言っているものではない。 後述するが、回転系での電磁場の満たす方程式は、Maxwell 方程式とは異なると理解すべきである。
電磁気と相対論とは、密接に関係している。電磁気なしには相対論は発見出来なかっただろうといわれる。 相対論の出来る前に、Maxwell方程式はすでに相対論的であった。 E と B がそれぞれ波動方程式を満たし (φもAも同様)、光速度の波となることは、 (任意の慣性系で、光速が一定である。)という考えに一致している。
ポテンシャルは、他の 4 元ベクトル(例えば、電荷密度ρと電流密度i) と同様に、x 方向に進む速度 v の系からみると、 時空と同じローレンツ変換をうける。
φ' = γ(φ - v A_x)
A'_x = γ(A_x - v φ), A_y'= A_y, A_z'= A_z
電磁場は、4 元ベクトルではなく、ポテンシャルが 4 元ベクトルである。φ_μ (φ_1,2,3=A, φ_4= φ)、 電磁場は、その回転である2階の反対称テンソル F_μν= ∂φ_μ/∂x_ν - ∂φ_ν/∂x_μ の 6 成分 (E_i= F_i4, H_1= F_23, H_2= F_31, H_3= F_12) であるため、ローレンツ変換式もすこし変わった式になる。 5章に後述する。
真空中(ρ= 0, i= 0)の Maxwell 方程式から電磁波の波動方程式を導く。
div E= 0, rot B= dE/dt
div B= 0, rot E= -dB/dt
rot B の式の両辺の rot をとり、公式 ∇x(∇xA)= ∇(∇・A) -∇^2 A と、div B= 0 とを使い、 磁場は、空間 2 階微分の和が時間の 2 階微分となる。これを波動方程式という。
rot (rot B)= rot (dE/dt)
grad div B -∇^2 B = d(rot E)/dt
-∇^2 B = d(-dB/dt)/dt
∇^2 B = d^2 B/dt^2
□= ( d^2/dx^2 + d^2/dy^2 + d^2/dz^2 - d^2/dt^2 ) = ∇^2 - d^2/dt^2 をダランベールの演算子、ダランベリアンといい、 これを使えば単純に、□B= 0 と書ける。同様に rot E の式の両辺の rot をとれば □E= 0 となり、電場も同じ形の波動方程式になる。
□B= 0, □E= 0
空間中のベクトルの波がこの "波動方程式" で表されるとき、任意の形をとった波が光速(ここで 1)で 3 次元空間を任意の方向に移動 できる。単位について奔放に省略したので、少し補足すると、SI 単位系の Maxwell 方程式は、
div E= ρ/ε_0, rot B= μ_0 ε_0 dE/dt
div B= 0, rot E= -dB/dt
であり、μ_0 ε_0 (= 1/c^2) に光速が隠れている。
Maxwell 方程式を基本方程式とした電磁気は、電磁場の背後にある、測定可能でない電磁ポテンシャルを見出した。 電磁場は、それぞれ次の式で、スカラーポテンシャル φと、ベクトルポテンシャル A との微分形式で表す。
B= rot A, E= -dA/dt -grad φ .........(1)
ポテンシャルは、時空と同様にローレンツ変換する 4 元ベクトルである。 H. A. ローレンツは、ポテンシャルには余分な自由度があって、任意のスカラー関数 f(x,t) を使って、
A'= A + grad f, φ'= φ - df/dt (ゲージ変換)
のようにポテンシャルに変化を与えても、同じ電磁場 (B'= B、 E'= E) を与えることを示した。
B'= rot A' = B + rot grad f = B
E'= -dA'/dt - grad φ' = -d(A + grad f)/dt - grad (φ - df/dt) = -dA/dt -grad φ = E
例えば、(1) 式によって電場は、A の時間微分とスカラーポテンシャルφの勾配との和の符号反転であるが、 電場をφの勾配だけで表す、A= 0、φ= -z E0 とすると z 方向の E0 の電場になるが、 A の時間微分だけで E を表す、A_z= -t E0、φ= 0 としても同じ電場を与える。
この任意のゲージ関数 f による、ポテンシャルの非決定性をゲージ変換(gauge transform)といい、電磁場(実在)の背後にあるポテンシャルは、 この本質的な不定性をもつために物理的実在とはできない。しかし、電磁場を決めるポテンシャルが重要な存在であることは、 明らかである。このポテンシャルの不定性は、古典電磁気の本質的な対称性を表すものとして、ゲージ対称性とよばれた。
余分な自由度を削るためにポテンシャルが従う制限を"ゲージ"と呼ぶ。クーロン・ゲージは、A の発散を 0 とする保存式であり(∇・A = 0)、 ローレンツ・ゲージは、ポテンシャルの 4 元発散を 0 とする連続の方程式である。(∇・A + dφ/dt= 0)
1960 年頃にアハラナス・ボーム(Aharonov-Bohm)によって、長いソレノイド外部を通過する電子の干渉縞がずれる現象が確認された。 これは、磁場を通した鉄のホイスカーを通す電子の回折実験であった。理想的に長いソレノイドの外部には磁場はなく、 ベクトルポテンシャルしかない。このようにポテンシャルの実在は、量子の干渉現象によって確認されたが、それは、量子力学が ポテンシャル中の波動関数で記述するからであり、古典電磁気にはポテンシャルの影響はない、とは言いきれなかった。
ゲージの制限、例えばローレンツ・ゲージは、数学的な容易さのためにするものではなく、実在するポテンシャルの物理特性であり、 保存則、連続の方程式であるという捉え方がある。電磁波の伝搬の方程式もクーロン・ゲージでは正しくでないという。 クーロン・ゲージ∇・A= 0 は、ローレンツ・ゲージの光速を∞にする近似であり、ローレンツ変換に対するガリレオ変換に相当し、 ゲージ変換は、古典電磁気にある本質的な対称性を表すわけではなく、単なる制限不足の不定性であったという可能性である。 この説については、ジェルマン・ルソー (Germain Rousseaux)の "The gauge non-invariance of Classic Electromagnetism" (arXiv physics/0506203 v1 28 Jun 2005) を参照。
上述のように、ポテンシャルを次のように定義すれば、
B= rot A, E= -dA/dt -grad φ .........(1)
Maxwell 方程式の 第 2 組は、つぎのように自動的に数学的恒等式として出る。
div B = div rot A = 0
rot E = -d/dt rot A - rot grad φ = -dB/dt
Maxwell 方程式のもう 1 組、div E = ρ、 rot B = dE/dt + i を導出するには、 ポテンシャルの定義とポテンシャルが従うどのような式を与えればよいのだろうか、 それには、ローレンツ・ゲージ (Lorentz gauge)
div A + dφ/dt= 0 ............(2)
とポテンシャルの波動方程式
□φ= -ρ, □A = -i ..............(3)
とがあればよい。
(1) から div E = div(-dA/dt -grad φ) = -d/dt div A - div grad φ
(2) から = d^2φ/dt^2 - div grad φ = d^2φ/dt^2 - Δφ = -□φ
(3)を使って、= ρ
rot B = rot rot A = grad div A - Δ A
(2)を使って、 = grad (-dφ/dt) - Δ A
(3)を使って、 = grad (-dφ/dt) - d^2/dt^2 A + i = d/dt(-grad φ - dA/dt) + i
(1)から、 = dE/dt + i
5. ローレンツ力と座標変換
電場と磁場は、同じものの別の側面であり、みる慣性系の違いで姿を変えて現れる。 しかし全く電場も磁場もない点が、座標系の変換によって電場が現れることはない。 そのことを明確に示すのが、電場と磁場の相互の変換則、電磁場のローレンツ変換である。電場と磁場の存在する中で、速度 v で動く電荷がローレンツ力 F = q(E + v x B) を受けている。 速度に依存しない部分を与えるのが電場、残りの速度に比例する部分を与えるのが磁場である。 この式には、加速度は出て来ていない。
電場と磁場の定義とローレンツ力の法則とは、慣性系が変わっても同じとすると、 この式が速度 v を含むため、系の変換に伴い、電磁場は互いに姿を変えざるを得ない。 速度 v の系から見ると空間に分布する電磁場の構造が速度 -v で動くというわけではない。
電荷に並進する系では、磁場も残るだろうが、電荷は静止するから磁場の影響はなく、 もとの系の電場と磁場が原因のローレンツ力は、電場だけを原因とする力になる。 磁場は、系の速度に比例する電場に変わり、 その系の電場は、元の系のローレンツ力の式に類似するものとなる。
ここで力のローレンツ変換を与える。天下り的だが、電荷の見る力 F' は、F'= γF である。 (逆に言うと、物体の静止系の力は、速度をもった系からみるとき 1/γ に小さくなる。) ここで、γは、速度 v と並行成分では 1、垂直成分は時空のローレンツ変換で出て来たγ= 1/√(1-v^2/c^2)である。 以上から、電荷の見る電場は、E'= γ(E + v x B) である。 このように電磁場の一体的関係 (電磁場のローレンツ変換) は、 相対論によって、ローレンツ力から導かれる。
電磁場のローレンツ変換は、つぎの二つの式である。
E'= γ(E + v x B)
B'= γ(B - v x E)
E' の式はすでに示したが、B'の式は、存在しない磁荷のローレンツ力に対応する磁場の変換式である。 これを導こう。E'の式の逆変換は、' を入れ換え、v と -v を入れ換え、
E = γ(E'- v x B')
この式中の E'を順変換式で置き換えると B'と B と E の式になる。後はこれを整頓するだけである。
E = γ(γ(E + v x B))- v x B')
E(1-γ^2)= γ^2 (v x B) - γ (v x B')
E(v^2/(1-v^2))= γ(v x (B'-γB))
v x (v x A)= -v^2 A から、両辺に v x をかけ、
v x E/(1-v^2) = -γ(B'-γB)
v x Eγ^2= -γ(B'-γB)
-v x Eγ= B'-γB
B'= γ(B - v x E)
電磁場のローレンツ変換は、速度 v の並行成分(//)と垂直成分(⊥)に分けて書くと次のようになる。
E'//= E//
B'//= B//
E'⊥= γ(E + v x B)⊥
B'⊥= γ(B - v x E)⊥
さらに、速度 v が x 方向なら、
E_x' = E_x, B_x' = B_x,
E_y' = γ(E_y - v B_z), B_y' = γ(B_y + v E_z),
E_z' = γ(E_z + v B_y), B_z' = γ(B_z - v E_y)
とも書ける。
6. 電線の側の電荷
直線状の電線のなかを電流が流れて、近辺にはそれが原因の磁場が発生する。 磁場は、電流に比例し、電線の長さが無限のとき、電線からの距離に反比例する。 電線に平行に飛ぶ電荷を考えると、それに並進する系から見ると電荷は静止している。 どうして電荷は、力を受けるかというと、この系では電線が帯電しているのである。電線の中には、格子の電荷+qと自由電子-qがある。その和は 0 とする。 +qは静止していて、-q は平均速度 u をもつ。これは、1 Aの電流、0.1 mol/m の電線のとき、 u= 約0.1mm/sec 程度の速度である。
電線の単位長の電荷を q [C/m]とし、電流 I= qv [A= C/m]から u を求めてみよう。 6.35 g/m の電線(銅 Cu の原子量= 63.5 から 0.1mol/m)では、 q= 0.1 [mol/m] x アボガドロ数 6.02x10^{23} [/mol] x 電子の電荷1.6x 10^{-19}[C]より、 q= 10^4 [C/m]であり、1[A= C/sec]を得るには 10^{-4} [m/sec]、つまり 0.1mm/secでよい。
どうして帯電するかであるが、速度 v の系からみた帯電の原因は、驚くべき事に、 格子電荷+qのvと自由電子の速度 v+u のローレンツ短縮の差によるとして説明するのである。 ここで、u≪v≪cとする。比 v/c は小さく、u/c はさらににわずかである。ローレンツ短縮の式 1/γは1次で近似すると、 √(1-(v/c)^2) 〜 1 - v/c
速度 u で動いていた電子を静止させた電荷密度q_0^-は、u によるローレンツ短縮を戻せば、静止した q より小さい。 (静止した電子の密度)
q_0^- = q √(1-u^2) 〜 q (1 - u/c)
速度 v の系からみた、q^+ は、q を速度 v のローレンツ短縮したものであり、 (格子の密度)
q^+ 〜 q (1 + v/c)
q^- は q_0^-を v+u のローレンツ短縮によって、1 +(v+u)/c倍したものだから、 (電子の密度)
q^- = q (1 + v/c + u/c)(1 - u/c) = q (1 + v/c + u/c - u/c -vu/c^2 -u^2/c^2)
それらの差である電荷は、u≪vから、
q^+ - q^- = -qvu/c^2
qu は1[A=C/sec], vが 1[m/sec]のとき、総電荷(q^+ -q^-)は1/c^2[C/m]となる。 1[C/m]の直線電荷から 1m の距離の電場は、2/(4 π ε_0) [V/m]であるし、 (4 π ε_0)*c^2 = 10^7 から 2*10^{-7} [V/m]の電場を電荷は見ることになり、 1[C]の電荷なら2*10^{-7} [N]の力を受ける。
磁場からの説明では、1A の電流から 1m の距離の磁場は、正確に2 [m Gauss]= 2*10 ^{-7} [T]であり、 1[C]の電荷が 1[m/sec]の速度をもつとき、2*10^{-7} [N] の 力を受け、結果は一致する。
驚くべきことは、電流の起こす磁場という非常に普遍的現象が、電子と格子とのわずかな速度差の、 さらにローレンツ短縮の差による帯電として電荷は見ているという説明がうまくいくことである。 これほど説明がうまく行くのは、電流に並進する電荷の場合であり、 電線に直交する方向に移動する電荷ではこうは上手くいかないのであるが。 我々の電磁現象は、巨大な電気的力と微小な相対論的効果によって出来ている。
7. 磁場の発生源の速度
場は、ある座標系から見た空間の一点の性質を完全に記述している。 磁場、電場というときに、場は、すでに完結した表現であり、 電磁場によって完全に表されている。 それなら発生源の速度に言及するのは無駄だろうか。 速度をもって磁場を横切るとき電場になって見える。磁場が電場に変化するのであり、 速度を持った場、動く場という言葉使いは不正確であるという。 それなら動く磁力線は意味がないというべきか、 そのような混乱をほどくために次のような質問をしてみよう。磁場中を速度 v で飛ぶ電荷と同じ速度を持つ座標系(電荷の並進系)から見ると電場をみる。 それでは一様な磁場の発生源に速度 -v を与えた場合に電場はでるか? 飛んでくる巨大な一様な磁場源、たとえば巨大な電流ループ、巨大な永久磁石が飛んで来るとき、 それは電場になって見えるだろうか。それ以外に関係する物体はないとする。
図 3. 飛んで来る電流ループ
電場源がないのだから電場はない。飛んでくるのは、"磁場源"だろう、と答える人は、 磁場中を飛ぶ電荷が電場を見るということをもう一度考えるべきである。 電荷が見る電場の説明は、言い訳ではない。その荷電粒子が電場をみるなら、人間だって見る。 慣性系が対等であるなら、磁場源である磁石なり電流ループが速度をもつときは電場を出すのでないか。
もう一つのよくある答えは、磁場の時間変化がないのだから、電場はできない、 電磁場は、Maxwell 方程式が全てだから、磁場の時間変化がないと電場はできない、 という答である。これについては後述するが、ヒントは、磁場中を飛ぶ電荷にとって、 磁場の時間変化があるのかである。磁場の時間変化は、必要というわけではない。
8. 馬蹄形磁石
昔風の馬蹄形の磁石の両極の間にコの字型の電線で一方の極を囲むブランコにする。その両端は検流計につなげる。つまり、ループ はひとつの磁極を囲んでいる状態にする。磁極は円筒状、ブランコの先の電流は何度も巻いて円形ループにして、電線の近傍の磁場は、 電線に垂直な一様な磁場とする。ブランコを振らせ、導線を馬蹄の内外方向に移動するとき、検流計の針は振れるがこれは、磁場の中を電線が速度を持っているから、 磁場中を移動する導体に発生する電磁起電力 (ローレンツ起電力) によると説明される。それでは逆に、磁石を前後に移動した場合、 検流計の針は振れるだろうか、という質問である。
磁石上を移動する導体に起電力が発生するとき、磁石を移動させて導体を固定しても同じ現象がでるだろう、そのような相対性の原理 が基本的に成り立つと期待するのは自然である。検流計の針が振れないということは信じがたい。慣性系を変えるだけで局所現象が 変わることはない。磁場源と相対運動する電線に電場が発生するのであり、一様な磁場源も速度を持てば電場源になるのではないか。
図 4. 馬蹄形磁石
それに対して、電線の近傍の磁場は一様だから、磁石を動かしても、磁場の時間変化はない。そのため、磁場の時間変化がないところ に電流は流れない、という答えがあり得る。このアインシュタインが取り上げた問題(*)は、片方は磁場の中の電線の移動の電磁起電力 であり、もう一つは電線が静止しているときの磁場の時間変化という、系によって説明がちぐはぐであることが問題であり認識論的 な困難なのである。これはそれとは違う。磁場の時間変化がない状況では、針は振れないというしかない、という。
磁石を移動する場合には、電流ループの中を貫く磁束の変化が電位を生むが、電流ループ上の任意の位置には磁場の時間的変動はない。 磁場の時間変動がないから、電場はできないという意見である。
場の基本的な考え方として、速度をもった磁場と速度をもたない磁場の区別は不可能である。電場、磁場しかみない一点が、一様な 磁場源の移動を知る方法はない。磁場が全く変化せずに、電場ができるとは、Maxwell 方程式を知らないのではないか、というのである。
なぜ我々は"発達理論"を必要としない
(*) アインシュタインの 1905 年の "運動物体の電磁力学について" の冒頭にこのことが記述されている。 電磁場の問題は、力学の問題とともに彼の特殊相対論の主要なテーマであったと考えられる。彼以前に Maxwell 方程式は、明確に現在と 同様な表式によって与えられていた。彼は、そこに特殊相対論とローレンツ変換を明確な式で与えた。電磁場のローレンツ変換もその 6 章 にある。つまり、特殊相対論は、Maxwell 理論のもたらした時空と電磁場の理解の変更を強いたのである。私のこの文章の 7 章以降最後 までは、この状況を正確に把握することを目的としている。
よく電磁気の教科書ではつぎのような文章を見掛ける。
"磁場の中を動く粒子は電場をみる。磁場の時間変化が電場になる。"
しかし、徐々に説明するように、この文は、正確ではないのである。磁場中を飛んでいる粒子にとって、 磁場の時間変化があるわけではない。一様な磁場の中を飛んでいるのに電場を見るのである。 この問題では、電線の場所の磁場は均等で一様としている。 磁石を動かしても磁場は変化しない。それなら検流計は振れないのか。 電線を動かせば検流計が振れ、磁石を動かせば振れないというのは魔術の世界である。 こういう時には、すべての現象が相対運動によるという基本認識に立ち返るべきである。
この状況は、もうすこし説明と理解が必要である。電線のループの各点において磁場の時間変化がない、 しかしループの内側の面のなかには、磁場の時間変化があるのである。 電線の場所に磁場の時間変化はなくても、電線に電場ができるのである。 rot E = - dB/dt という式は電線上では、0 ベクトルであるが、この式は、 rot E を規定しているが、E を規定している式ではない。 電線上で、rot E がゼロというだけである。
ループを一巡する電流は、ループを一巡する電場 E の電線方向成分の線積分による。これは、Stokes の定理から、 そのループを周りとする任意の閉曲面内部の rot E の面積分に等しいのであり、ループ電線上の rot E に依るのではない。 ループ上の磁場の時間変化、これがゼロであっても E はゼロとは限らないのである。
電線上を一巡する電場 E の成分は、ループの面積内部の rot E による。ループ内部に磁場の時間変化があるということは、設問のわなではない。 ループ内部を貫通する、磁極の側面から磁力線が一様に出ている事自体、磁極の先の断面では、磁力線が側面から出ていった分だけ、 内部の磁束が減少することを表している。磁極を前後に動かすとき、電線ループの内部にあたる磁極の磁束は変化しているのである。
これは問題の設定が奇妙なためであって、ループ内部にもうひとつの馬蹄形の磁石を対面させると磁束の減少分は打ち消されるのではないか、 という反論がくる。しかし、これは間違いである。一方の磁極で先に行くにつれて減少する磁束は、対面させた他方の磁束の増加によって補 われるわけではない。逆方向磁束の増加(つまり減少)が付け加わるだけである。それでなくて、外に磁力線が出ることはない。
9. 電場をみるために
馬蹄形磁石ではそうかもしれない。しかし、非常に大きい磁石か電流ループが飛んでくる場合は、そのような rot E を計算する場所がない だろうという反論がやってくる。磁極内部をうんぬんできないだろうということである。磁極が円盤型の磁石とか、巨大ループ電流が飛んで 来るとき、どこの内部をとって磁場の時間変化があるというのだろう。普通の円板型永久磁石を上下において、電線を挟んだ場合、磁場が一様であるとき、電線を動かすと電場ができ、上下の磁石を動かす場合には 電場はできないというのである。この磁石を前後に長い電流ループに置換え、それが飛んでくるとき、前後に長いので、飛んでくることによって どこも磁場は変化しないとするのである。そのような場合には、電場はできないのではないか、という反論である。
これも間違いである。そこには電場がある。それを示すには、簡単にはそのループと交差する辺をもち、飛んでくる長いループの外側まで 長いループを考えればよい。この新しい検出用のループの中の磁束は変化するので電流が検出できる。磁場の時間変化の無い場所にも電場は できるのである。
図 5. 電場を見るために
待ってくれ、細長いループの外側にまで広がったループを考えるのは、現象の局所性を無視している。その場合は、広がったループ面内の 磁束変化を認めることができるが、今議論している測定点では、誤差の範囲内の話になる。という反論がくる。
巨大な円盤形の磁石の間に発生した電場は、その電場中での小ループには電流を発生しないため、電場発生には実感がない。しかし、これは 地球磁場の中を飛ぶ飛行機の話(ファインマン物理の電磁気) と同じで、電場は発生しても電流計を使っては測定できないものである。 電流計までの電線で丁度キャンセルされるからである。馬蹄形の外を通る電線、元のコの字型の電線では電流は計れるわけである。 そのような経路が明白な場合は明確である。
10. rot E = 0
Maxwell 方程式は、磁場の時間変化がないdB/dt= 0 のとき、rot E = 0 であっても E = 0 であるとは言っていない。rot E = (-1/c) dB/dt, rot B = (1/c) dE/dt + i
Stokes の定理より、rot E はループの囲む面内で面積分してループ上に発生する E を与える。ループ上で dB/dt が 0 だからといって ループの囲む面内は磁束変化を持ちえる。馬蹄形の磁石の話は、まさにその例である。Maxwell 方程式は電磁場の直接の値 E を与えてはいない。 それは、空間の 1 点の微分方程式であり、rot E という空間的微分しか磁場の時間変化は与えない。その領域外の rot E の影響を説明してはいない。 全空間は関連していて、各点は互いに影響している。境界条件があるのだ。電線ループ上の直接の E を説明するのは、ループの内部面内の rot E である。
おい、どこかに磁場の時間変化があるではないか、磁場の時間変化はないといったではないか、という反論がくる。たしかに、全世界に磁場の 時間変化がなければ電場はできるといえない。しかし、ある部屋の全ての点に、磁場の時間変化が無くても隣の部屋から電場がくるのである。 鄰から来る電場は反則のように見えるかもしれない。Maxwell 方程式は、もともと1点の物理であるから。しかし、rot E = - dB/dt の意味は、 "その場所の磁場の時間変化なしに電場が発生しない" ではなく、"となり(閉曲面内)の磁場の時間変化が(周上に)電場を生む" である。
たとえばスピーカの円筒形ギャップに小さい部屋があって、磁石を軸方向に動かした場合、ボイスコイルの一部の小さい部屋のなかに電場は できるのである。部屋の壁の向こうには中心の鉄心があって、鉄心の中に磁場の時間変化はあるが、隣のことを持ち出すことはない。すでに 部屋の中に磁場の時間変化はなくて電場はできる例を示したのである。rot E が dB/dt によるということを E 自体がこれによると勘違いし ているのである。E が変化するかどうかは、dE/dt = rot B - i だから、rot B と i の差で E は変化できると考えるべきだろう。
11. 場の概念と相対運動の概念
つまり飛来する磁石は電場源なのである。速度 -v で移動する磁場源は、B を磁場源の並進系での磁場とするとき、E= v x B という 電場を生みだすと考えなければならない。磁場源(磁石、電流ループ)が速度をもつとき電場源となる。磁石と電線(電荷)という 2 物体 しかないときは、全ての現象は、両者の相対運動で記述できるはずである。空間の各点に 3 次元ベクトルを 2 つ考え、電場 E と磁場 B として 6 変数をもつ、電磁場は座標系の空間の各点に定義された 3 次元ベクトル である。これを使った Maxwell 方程式は正しい。しかし "磁場の時間変化" という誤解に苦しめられたのは、この考え方である。 (相対運動では発生が明白である電場を、磁場の時間変化に置き換えることができるとは限らない。)
場はもとは、遠隔論をさけるための仮説であった。遠隔作用を避け、有限の伝播速度のために設定された電磁気の場は、物体と同じように 実在的に扱われ、場にも運動量、エネルギーがあるとされる。それは決して間違いではなかった。しかし、場の概念は、現象が物体間の関係 であることを忘れさせる欠点を持っている。ある系からみたある点の記述を導くのに多少の能力が不足しているように思われるとき、 相対運動の基本に戻って考えるべきであろう。なぜなら相対運動の概念は、場の概念よりも、より基本的な概念と思われるからである。
もちろん、場が速度をもつとか移動する場という言葉は誤解をまねくため使うべきではない。場が移動するわけでなく、電場と磁場が変化する というべきである。場が速度をもつのではなく、ある速度の系では、この場がどうなるかということである。電磁場は別の系からみると、 全く様相が異なるからである。ある系で磁場だけがあって電場がない時、別の系からは同じ点に電場もみえる。 この変化の仕方が電磁場のローレンツ変換である。
モノポールが存在しないからといって、電場源(電荷)の速度が磁場に与える影響は認めておきながら、磁場の源(電流ループ)の速度が 電場に与える影響がないと考えるのはどういう訳だろう。磁場が時間的に変動しないからといって、磁場源が静止しているときと同じ場 をもたらすことを、期待する理由はない。時間的に変動しない磁場でも移動する磁極が作りだす電磁場は、静止した磁極が作りだす電磁場 とは違ってもよいと考えるべきであろう。
相対運動とは、ある慣性系での物理法則は、速度 v で動いている別の慣性系でも同じく成り立つという、物理法則の普遍性の要求、"相対性原理" である。すべての物体の相互作用は、物体の相対運動として起こる。相対性の原理(空間は方向性を持たずに、並進の座標系はすべて同等である) はガリレイの、またはアインシュタインの相対論の依って立つ原理であり、困難なパラドックスを解決する武器である。
"ある系で、力線が止まっていて、別の系でそれと交差するかどうかは確かでない、その系ではその力線は存在しないかもしれない、" とファインマンはいう。しかし、静止した力線と速度 v で交差する電荷があるとき、電荷系での交差ありなしは、もとの系での交差する事実を、 変えるわけではない。ローレンツ力自体がもとの系での交差を記述し、電荷系での電場を示している。
磁石から磁力線は生えているという、力線実在論なら、速度をもった電荷が磁力線と交差して電場をみる。そのとき逆に磁石を動かせば磁力線が 動くという見方が容易にできる。それを、磁力線を磁場に置き換えると、一様な磁場は飛来するのも静止と変わるはずがなく、電場はできないと いう見方ができる。場実在論は、このとき磁場が電場に変わることに気がつかない。場の概念が邪魔をして、磁場のなかの電荷のみる電場を自分 の立場に置くことができない。この場合は、場実在論よりも古い力線実在論のほうが電磁場のローレンツ変換を導いたのである。
場の実在論に対して、ファインマンの言葉を変えれば、次の言葉になる。 "場は、実在的に捉え過ぎる欠点がある。 ある系に場があって、別の系で それがあるかどうかは確かでない、その系ではその場は存在しないかもしれない " 磁場だけの中を進む電荷がうける力を説明する電荷のみる電場は、 我々の系では消えさって磁場だけになる。場が系に依存するのは、力線が系に依存するのと、どこが違うのだろうか。
相対運動は、系の間の電磁気のローレンツ変換に帰結する。さらに、同じ時空点の電磁場が慣性系によって異なるだけでなく、場とは、相対論の同時刻 の空間によるから、それらが時間変動するとき、系によって場自体が異なることに注意すべきときがある。同時刻空間が即時にここの現在に影響する ことはないが、すこし待てば過去のその空間が見えて影響する。場が系によって異なる原因は、同時刻の空間が違うことによると言ってよい。
12. 電流ループの飛行
大きな電流ループの中で電荷が速度 v をもつ。電荷からみると速度 -v をもつ大きな電流ループの側面(v に平行)の電線が、 一方はプラスに他方がマイナスに帯電して見える。これが磁場中を飛ぶ電荷に電場が見える原因である。図 6. 電流ループの飛行
また、右に y 前方に x 上方に z を取るとき、 2 つの面(y=0,y=1)に電流が逆方向(-x,x)に流れているとき、 y が 0 と 1 の間では磁場は z 方向に向く。電荷の速度が x 方向であるとき、電荷系からみた 2 つの面の間は 反対方向の帯電をした面に挟まれた電場をみる。
進行方向に多少細長い電流ループを前後に動かすとき、その近辺の磁場の時間変化はないが電場を生じる。 それを横切る電線に電場が生じるがそれをみる方法はないかというと、無いわけではない。 電流ループよりもさらに細長いループで電流ループの端を内側に含む面をもつループをつくり、 その電線を閉じると、そのループの囲む面には磁束の時間変化があるため電流が流れる。 この電流は、もとの近辺の電場が原因の電流であると言うことができるだろう。
検出用ループの長い 2 辺をレールにして、横切る電線を飛んでくる電流ループとともに移動する棒とすると、 この検出用ループは磁束の時間変化をもたない。このとき検出ループには電流が流れないだろう。 これは磁場中を速度 v で移動する導体に発生した起電力が、電場で打ち消されていると考えて初めて納得できる。
13. 行き帰りする定期航路
飛んでくる電流ループが帯電する説明である。地球とアルファケンタウリの間を定期航路ができているとする。 毎年、正月に両方の恒星から光速にほとんど近い定期船が出発する。アルファケンタウリと地球の間は 10 光年 (実際は 3 光年) とすると、 地球と、アルファケンタウリからみると行き帰りそれぞれに 10 隻ずつの船が並んでいる。(下図左)航路は地球やアルファケンタウリからみると 1 隻到着するたびに、1 隻が出発するため、行き帰りの密度が変化しないが、 これを太陽系を離れ、アルファケンタウリに向かって加速したばかりの光速に近いロケットは、違ってみる。太陽系や アルファケンタウリは、光で 10 年かかる距離をロケットは、1 年も経たずに目的地に着くのである。 船の同時刻である空間は、地球は、2000 年だが、前方は未来であって、アルファケンタウリは、2009 年になっている。
だから、ここからの眺めは、次のようなものである。もちろん、この光景を描写する光は、このロケットには、まだ届いていないが ロケットにとっての空間は、こうなる。往路の船は、すでにすべて目的地に到着していて、行きの航路上にはこの船だけしかなく、 戻りの航路には 2009 年までにアルファケンタウリを出発した全ての船がまだ太陽系には到着せず、20 隻が並んでいるのである。 (下図右)
図 7. 行き帰りする定期航路
地球とアルファケンタウリの間には時間差があるため、行きの船はまばらで、帰りの船は密集する。飛んでくる電流ループは、 電子の航路が向かってくる側が密集し、むこう向きがまばらになる。そのためむこう向きの電流方向をもつ電線の部分は、 マイナスに帯電し、こちらに向かう電流の部分はプラスに帯電している。そして、磁場のなかの速度をもった系が電場をみる。
これが電磁場が系の変換によって姿を変える理由である。場は、同時刻の空間からくるものである。系によって同時刻の空間が 異なることが基本的な原因である。速度をもった系では、同じ場所にいても同時刻空間が違うから、場が違って当然である。
14. 飛んでくる電線
飛んでくる磁石は飛んでくる 2 本の電線に置き換えられる。 2 本の電線には互いに逆向きの電流が流れている。 飛んでくる方向は電線に平行である。これは電場を発生するか、という問題に置き換えられる。一本の無限に長い電線の電流が、そばを電線に並行に飛んでいる電荷からみると、帯電してみえることは、多くの教科書で示されている。 この事の説明としては、プラス電荷とマイナス電荷のローレンツ短縮の違いで説明される。通常程度の電流では電子の平均速度は、 毎秒 0.1 mm 程度であるのに、電荷からみた相対速度のこの微小な違いがローレンツ短縮の違いとなって、電流の流れる電線が帯電して見えるのである。
電線に静止した座標系からは磁場は電線までの距離に反比例する。粒子から見て電線が帯電している場合も電場は電線までの距離に反比例する。 磁場の座標変換による電荷のみる電場は速度と磁場の両方に比例する。
磁場を電荷の相対速度の微小な違いから説明する以外の説明がある。4 元電流ベクトルである、電荷密度ρと電流密度 i は、 ちょうど時間と空間のようにローレンツ変換される。(速度 v の系の電荷密度、電流密度を ρ', i' とすると、ρ'= γ(ρ- vi), i'= γ(i- vρ)) 速度をもった電荷から見て向かってくる電流はプラスの電荷密度に変換され、電流と速度との両方に比例する項 vi これが電場の原因である。
電流が電荷密度に変換される理由としては、次のようなものである。電流はある断面から流出し、ある断面から流入する。 両者の断面に向かっている座標系では同時でないものを同時とみるからである。物体が向かってくる時、前方は物体の未来に対応する。 向かってくる電流は、前方断面からすでに流入した量が後方断面から流出する量より多くて当然である。 この時刻の差は、速度に比例する項であり、電流密度が電荷密度に変換される項である。
この説明は無限の長さの電線でなくとも成立する点で優れている。要するに、飛んでくる電流は帯電している。 2 本の電線は逆に帯電していてその近辺の空間には電場が発生するのである。
15. 単極誘導 (Unipolar induction)
軸対称な磁石のその軸を中心とする回転のもたらす現象を "単極誘導"という。単極誘導のしくみはローレンツ起電力または、 ローレンツ力の直接利用であり単純なものであるが、これを取り上げるのは、磁石の回転の原理的な認識上の問題を示すためである。 その議論は歴史的にあり、現代の学者が正しく解決したとは思えない説明を残している。(19注*参照)単極誘導は、場の概念を基本的とするか、相対運動を基本的とするか、によって解釈が異なる現象である。 磁石を回転させたときの現象を相対運動による現実の電場発生とすると、回転する磁石の付近の静止した導体円板に電場が発生する必要がある。 それは Maxwell 方程式を破壊するように見える。場の概念を基本にして、Maxwell 方程式を優先すると、電荷なしに電場の発散はなく、 磁石の回転運動はなんらの電場をもたらさない特別な運動ということになる。両者のどちらが正しいかの実験的検証は、不可能ではない。 しかし、まずは、その種々の側面の説明に入ろう。
数学の操作は何ですか
図 8. 単極誘導 (Unipolar induction)
軸対称に磁化された円筒形の永久磁石を N 極を上に置く。磁場 B は上を向く。磁石上で導体円板を水平面内で上からみて左回り (反時計回り) に回転させる。回転円板上の各点の接線速度 v は、水平面内にあり、回転の角速度 w とその点の中心からの位置 r との外積 v= w x r である。この各点の接線速度 v と磁場 B の両方に垂直な方向に各点に (ローレンツ) 起電力 E が発生する。 これは、v と B との外積、E= v x B で表され、磁場が導体円板を上に貫き、速度は円板内からこれは、軸から外に向く方向になる。 その大きさは、速度と磁場に比例し、そして角速度と半径と磁場との三者に比例する E= (w x r) x B となる。
この回転円板上の各点で発生する起電力 E= v x B は、各点の接線速度をもった電荷が力をうけるローレンツ力 qv x B が原因ともいえる。 運動できる電荷は負であっても負電荷の受ける逆向きの力は、正電荷の受ける力と同じ働きで起電力を生む。 またこれは、回転する導体円板内の各点のみる電場、回転系に静止した電荷が力を受けるから、回転系にある電場といえる。 磁場のなかで運動する導体は、導体各部の電位が違い、中心から半径方向に電場 E を積分した電位は、半径 r の 2 乗に比例する。
円板は外周が中心よりも電位が高くなり、外周と円板の軸にブラシ(摺動端子)をつけて、 電位差 V を測定すると、円板の半径を r_0、磁場を B 一様とし角速度を W とするとき、V= (1/2) B W r_0^2 となる。 (接線速度が音速、直径 10 cm円板、磁場が1(T)のとき 340v/m * 5 cm/2= 8.5 voltである。) またブラシと軸の間から電流を取りだすと、円板中の電流は、磁場中での回転の反対方向の抵抗力 I x B を受ける。
単極誘導は、磁場の時間変化なしに電流をとり出す直流発電機であるが、円板に中心から外へ電流を流すと円板は誘導のときと 反対方向に回転するし、逆に外から内に電流を流すと誘導と同方向の回転をする直流モータにもなる。 それはローレンツ力を使ったモータである。そのとき放射状のスリットはあった方がよい。これが実用モータに成りにくい理由は、 色々あろう。非常な低インピーダンス性、周辺に比べて中心の接線速度が低く磁場が有効に使われない点、 また、電流の方向転換のための"転流器"は必要としない利点があるが、回転速度を制限するだろう"ブラシ"が外周に必要なこと等である。 ブラシは、水銀のような液体接点のほうがよいし、また外部に磁路カバーを設けることで効率は向上できよう。 しかしいま問題は、そのような実用性の問題ではない。
単極誘導の原理的しくみは、軸対称磁石上での導体円板の回転であるが、注意してほしいのは、電流計と一順する電線"戻り線"が存在することである。
モーターのときに発生する偶力(トルク)の反作用は磁石が受けるわけではない。定常的に円板上を電流が内から外に向かうなら、 外から内へ向かう電流が同じだけ必ず存在し、それはその偶力の反作用を受け持つことである。 磁石は磁場を提供するだけで作用と反作用からは独立している。円板に電流を通しても磁石を回転させることはできない。
その外から内に向かう戻り電流が遠く離れていても、磁場がそこでは弱まっていても、円板を軸からブラシへの一本の電線に置き換えて考えると、 その電線が閉じているため、交差した磁力線は、再度必ず交差するから、一順する電流がうけるトルクは、円板と電線の他の部分を合計すると 0 になるからである。
この装置が発電機のとき、円板の起電力と、軸への戻り線(測定系)の起電力との差を、電流計で測定する。 考え落されやすいのは、測定系の電線での起電力が円板の起電力と等しい場合は、電位差が出ないことである。 電線のどの部分ででも、磁力線と速度差をもって交差することで起電力があるとすると、一順したループ電線に電流を生むことはない。 ループがブラシで切断され、ブラシ速度があるときだけループ電流がでるのである。
円筒状磁石から上に磁力線が出る。それを導体円板が速度をもって横切る。そのために起電力が置きるという力線的な見方では、磁石を 回転して、円板は固定しても同様な起電力が起きるのではないかと考えることができる。磁石は電気的に回路から離れているから、 磁石を回転させるのは、磁石が円板より重いという欠点はあるが、それよりも、円板が固定できれば大きな機械的抵抗を生むブラシが 不要になるという実用的利点があるのである。
しかし、実験するとそれでは電流を検出しないことを知る。やはり、磁力線は、磁石に固定されていないのか。いやそれなら、固定磁石 の磁力線は、なぜ静止できたのだろう。付近の円板の回転に流されない理由がない。円板からは多少でも抵抗をうけるだろう。 (磁石の軸対称性が完全でないために回転円板にはうず電流が起き、機械的抵抗を生むと考えられる。) 磁力線は空間に固定されるという法則もない。ところが磁力線を磁場として見てみると、磁場の軸対称性から、回転しても磁場が時間的に変動しない。 そこに磁場の時間変化がないなら、電場が起きないのは当然ではないかと考えることができる。 こうして、単極誘導現象では場の概念が正しく、磁力線の概念が間違っていたことが証明されたのだろうか。 場の実体論は、磁場の時間変化では捉えられないとして、平行移動の運動では実体的な力線論に敗北した (8〜11の項参照) ものである。
ところが、それで話は終わらない。この議論は欠陥議論である。磁石を回転し円板を固定するという実験(4) (16章の表参照。) は、 磁石を固定し円板を回転する実験(1) とは回転相対が保たれていない。これは、(1)と(4)を比較しているが、 (1)の回転相対は(6)であり、 (4)ではない。この実験の全体的条件としては磁石と円板との両者だけではない。磁石回転の場合には、ブラシを通した先の電位又は電流の 測定器までの電線が役割を果たすのである。電線のこの部分は、磁石固定の場合、そこには起電力がでないから見過ごされたものである。
磁石を回転するときは、磁石の上の面から出て広がった磁力線は磁石の下の面の S 極の対応位置に向かって空間を広がっている。磁石を回転するとき、 この広がった磁力線も空間を横切って回転をしている。電流測定のための線にも速度をもって磁力線は交差し起電力が発生する。 (磁場になる磁力線の密度は、遠方ほど小さくなるが、磁力線の速度が距離に比例するから、遠方まで余り弱まらず発生する。) 円板の中心軸からのブラシを通した線と円板の周辺部のブラシを通した線は測定器まで繋がっている。測定器を含めてそれはひとつの閉じたループに なっている。一本の磁力線にこの閉じた電線が一度交差したら、同時でなくても、少なくとも1回転の間には、もう一度交差することになる。 そうして、2 度の起電力は等しい起電力を生むから測定できるはずがないのである。
しかしさらに、磁石の回転によって磁力線が空中を交差するなら、そこら中の導体に中心対称の電場を生む。それが測定しにくいものである ことは事実だが、これ自身がこで問題を生む。仮に、電場ができるとした場合、この電場は、Maxwell 方程式を満たさない。軸対称電場は、 一様な電荷の存在なしには得られない。
16. 三要素の回転
単極誘導の三要素は磁石と、測定系、円板である。要素それぞれの回転ありなしによって (0)〜(7) の番号をつける。磁力線が磁石に固定し、 磁石との相対回転によって円板と測定系の起電力が起き、その差が検出されるとする、磁力線実体論の実験結果の予測である。 これが現実の単極誘導の実験を十分に説明するのである。(0)は三要素全て静止である。(1)〜(7)は要素のいずれかが回転するので 2 進法番号付した。(1)が通常の円板だけの回転、円板に電位が出て、 円板(b)-測定系(a)= (c)に差が検出される。(2)は測定系だけの回転、これも電流計までの電線が磁石の上を走るから逆の電流が検出される。 (4)は磁石だけの回転である。円板と測定系の両者に起電力がでて、差は検出されない。これが(1)の回転相対であると誤認されたが、 正しくは(6)がそれである。また、(3)の円板と測定系の両者の回転では、電流計への電線と、円板とには等しい起電力があり電流は流れない。 (5)磁石と円板を回転させると、測定系には起電力がでる。(1)では、円板の起電力が原因だったが、(5)では測定系に逆の起電力が出て、 (1)と同じ結果になる。(5) は、(2)の回転相対である。(6) 測定系と磁石を回転させると、(2) と同様に電位が検出できる。(6)は(1)と 回転相対で、(1)と逆符号が検出される。
磁石 測定系 円板 測定系の電位(a) 円板の電位(b) 円板-測定系(c) (0) 0 0 0 0 0 0 (1) 0 0 1 0 1 1 (2) 0 1 0 1 0 −1 (3) 0 1 1 1 1 0 (4) 1 0 0 −1 −1 0 (5) 1 0 1 −1 0 1 (6) 1 1 0 0 −1 −1 (7) 1 1 1 0 0 0
電流が検出されるのは、円板と測定系との間に回転速度差があって、ブラシ間に速度のある場合であり、磁石の回転のありなしは、 測定結果に出てこない。磁石から磁力線が生えていると考えた場合と、磁力線に根がない場合とで結果が変わらない。
そのことから、磁石の磁力線は根が生えていないと結論するべきだろうか。磁石の回転は、この宇宙から無視されると考えることも 可能かもしれない。磁石を中空のループ電流に置き換えてイメージし、空廻りをするという説明をする人がいる。しかし、この結果 から測定系の電線に発生する起電力を忘れて、磁力線は磁石から生えていないと結論づけるのは誤りであることが明らかである。 磁場の源との相対運動を起電力の原因として、磁力線との交差だけを考えた場合も、同じ結果を説明するからである。
磁力線に根がないとする考え方は、磁場源が速度を持っていることを無視し、磁石の回転は磁場の時間変化を生まないので、起電力が 発生しないという解釈である。しかし、磁場源が速度を持てば電場源となること、つまり、前章までの相対運動の成果と折り合わせる 方法がない。それでは、磁石が固定されている場合は、どうして磁力線は磁石に保持されていたのだろう。物体のない空間に保持され ていたのだろうか。これは磁力線でなく磁場であるとする見方をとるだけで、座標系に保持されるのだろうか。磁石は、現実には一様 でなく、磁場の凸凹によって時間変化がはっきりある場合から、それが無くなるまでのどこで磁力線は磁石から根が途切れるのかも 説明できない。
円板-測定系(c)の電流または電位差には磁石の回転は、関係がないが、(a)(b)に電位が発生するかは、電流測定でなく、電場、電位の測定が必要である。
実体的な磁力線論が単極誘導を説明できないということはなく、その主張をする人の見落とした測定系の電線への誘導を考慮すれば現象を 十分に説明することを示した。また、この表の原始的な実体的磁力線の考え方が、 "相対的な角速度だけが現象を決定する"という、 回転相対性を許すことがわかる。すなわち、この結果だけからでは" 電磁気には回転相対性がない" ということはできない。
磁石を回転する場合も、速度をもった磁場源が電場源であるなら、局所的に円盤の一部に立った人は回転する磁石の一部をそのように みるのではなかろうか? 併進系では電場を見て、回転する磁場源にはそれをみないのだろうか。回転運動には加速度があるため併進運動とは違うが、加速度は ローレンツ変換には、関係しないとされているものである。しかし、回転系の上の点に並進する慣性系の物理と回転系の物理は違う。 電磁気の Maxwell 方程式は、慣性系にしか適用できない。しかし、特殊相対論が双子のパラドックスを解釈できるように、慣性系から 回転系を推測することはできるはずである。
これのもたらすディレンマは、回転する磁石が、固定した円板に軸対称電場を生むなら、電場の発散が電荷密度だけでないことになり、 Maxwell 方程式に抵触することである。
17. 回転磁石の近辺の電荷は力を受けるか
磁石を回転させる (4)の状況で、磁石の近辺に浮かべた電荷は力を受けるだろうか。電場があるとは、そういうことである。磁石の回転は静止系に電場をもたらすのではなかろうか。慣性系にのみ磁場源の速度の効果をみとめ、回転する磁場源に認めない理由はない。 ただし、それに乗ったひとが電場を見ていない磁場源である必要があり、回転磁石に乗ったひとが電場を見ているなら話が違う。 磁場中の回転系は軸対称電場を見ているだろうか。磁石が止まって円板が回転しているときは、一様な磁場中を飛ぶ電荷の話と同じで その円板の部分は軸対称電場をみる。磁石と円板がともに回転しているなら、それに並進する慣性系は、電場を見ている訳ではない。 並進する系から電磁場のローレンツ変換をうけると、静止系がその部分に電場を見て、磁石には外から軸に向かう電場ができる。 電場の大きさは軸からの距離に比例し、ポテンシャルは半径の 2 乗に比例するものとなる。
この考え方は、Maxwell 法則を無視しているため、間違っているとみる人がある。 磁石の元を環状電流とすると環状電流以外は真空で有りえるのに、真空中に電荷なしに軸対称電場ができるからである。 このような軸対称電場は、一様な電荷密度のあるときと同じになる。しかしこれもあり得るかもしれない。 磁石を回転させることなど Maxwell方程式は、想定しているのだろうか。真空中に電荷なしに電場の発散があってもいいとすると、 Maxwell 方程式とぶつかる。だからといって、電磁場のローレンツ変換はどうするのかが明確でない。
そこにすでに電場はあるではないか、という考え方は間違っている。磁石が固定しているときの円板の回転で起こる電位は、 磁場中の速度をもった電荷のローレンツ力によるものである。電場は、静止した電荷に作用する力である。結果的には、 同じような形の電場とポテンシャルになるため混乱しがちであるが、状況が違う。(又は、回転系には電場があると認めるべきだろう。)
固定磁石の上の回転円板によるローレンツ力による電荷の変移による電場は、磁石の同じ方向の回転による電場発生とは区別できる。 それは符号が逆であるからである。回転相対であるなら、ローレンツ力と同じく外側にむく電場を固定した円板に発生させるには、 磁石は逆向きに回転させないといけない。ところが、磁石と円板を同じもとの方向に回転させてできる電場を、磁石の回転が原因とはいえない。
ローレンツ力は、ローレンツ変換そのものである。ローレンツ力は、静止系の電磁場をローレンツ変換した、円板上の電磁場による力を、 元の系に戻すときに γ分が消えるだけである。つまり、ローレンツ力はほとんど、回転円板のその部分の系の見ている電場である。
18. どう解釈するのか?
この困った状況は、どう解決するのだろう。簡単に相対運動の考え方を捨てて、Maxwell 方程式のように電場の発散は電荷密度だから 回転する場合だけは仕様が無い、電場はできないとするのは、筋が通らないように思える。これの解決は、絶対静止空間をとることである。ギョッとすることだが、静止系だけは磁石は電場を生まない、回転系では磁石自体が 電場を生むとするのである。回転した磁石の系が中心軸対称電場を見ていてくれると、静止系はそのお蔭で、ローレンツ変換による 磁場の電場への変換によって中心軸対称電場を見ることがない。Maxwell 方程式は安泰である。
基本的には、静止系と回転系では電磁気法則は異なる。静止系では成り立つ電磁場の法則、Maxwell 方程式は、回転系では成り立たない。 電磁気には、回転相対はないのである。それだけでなく、自分の座標系が絶対静止系か回転系かが判断できるとするのである。 磁石をおいてその上に電荷を浮かべて力を受けるかどうかみてみればよい。力を受けないのが静止系で、力をうけるのが回転系である。 軸対称電場の大きさで、自分の系の回転を知ることができる。便利な御都合主義のように聞こえるが、そうすれば一応、辻妻合わせはできる。
この考え方は磁場源の回転だけはまったくこの世界に効果をもたらさないとしているし、ローレンツ変換は守っているが、その代わり 原始的な相対運動の原則を無視している。回転において絶対静止系というものがあるとみている。磁場というものが磁極の物体とは 切り離して存在している。磁場源の速度というものを忘れている訳ではないが、この系には出て来ないように法則を細工している。 ゴミをカーペットの下に掃き込むという表現があるが、慣性系の不都合を回転系に負わせるのは、ゴミを隣の家に掃き込んでいるのではないか。 このように仮定すると確かに便利だがそれが本当かどうかは怪しい。整合性は高いと見るべきか、ローレンツの例を挙げるまでもなく、 辻妻合わせは意外に成功するものである。簡単な実験確認が必要と思う。確認はかなりの考慮を必要とするが。
静止した電荷が近辺で回転する磁石から力を受けるという結果が出れば、それは軸対称電場を発生していると説明されよう。 しかし、磁石が環状電流のときはそのコイルが帯電するということによって説明されるだろうか。コイルの帯電では軸対称電場にはならない。 またコイルが回転によって帯電することは非常に有りえないようにも見える。電荷の不変性は慣性系では最も強い要請であったからである。
しかし、無限に長い直線電流のそばを進む電荷の慣性系からみると、直線電流が帯電するということでローレンツ力の電場による説明がされた。 これが回転においては全く様相が異なるというのは、現象の局所性の成り立たない説明である。 環状電流の近辺では環状電流は、無限に長い直線電流とどこが違うのであろう。 帯電で説明できない場合、なにをもって環状電流のそばの磁場のローレンツ力を説明するのだろうか。
この解釈は、回転の絶対性は遠心力の存在で確認できるとするニュートンの見解に近い。 バケツの水面のようにポテンシャルは、半径の 2 乗に比例する点はそれのようである。
ところが、よくみると、回転角速度との関係は明らかに違う。遠心力は回転の方向に依らずにつねに外向きであるが、単極誘導の電位は、 回転の方向に依存する。逆に回せば逆の電位がでる。それは、遠心力は角速度の 2 乗に比例するのに、この軸対称電位は角速度の 1 乗に 比例するからである。遠心力と同じように解釈することは間違いである。つまり、測定系の角速度との差だけが効果を持つという、 回転相対の可能性は、まだ残っている。単極誘導の現象をみると、回転はその相対回転速度だけしか効果をもたらさないように見える。
19. *注
手持ちの本の中で、単極誘導をとくに説明しない電磁気の本には、ファインマン物理学(岩波書店 III,IV が電磁気に関係する)、 ランダウ・リフシッツの場の古典論、電磁気学I,II (東京図書)(*)、Edward M. Purcel の第2版電磁気(丸善 バークレー物理学コース2)と、 V.D.バーガー/ M.G.オルソンの電磁気学(培風舘)がある。単極誘導を単に説明するだけの本は、熊谷寛夫、荒川泰二の電磁気学 (朝倉書店 朝倉物理学講座 5 1960) がある。
岡村総吾の電磁気学 III (岩波書店 岩波講座 基礎工学 2 1971) では、磁場中の導体円板でなく、棒磁石を使っても電位が発生する ことを図示している。
砂川重信氏の電磁気学(岩波全書297 1977)では、測定系固定での磁石の回転は電流を生まないことを根拠に、 磁力線が磁石に固定していないと結論する。
磁力線は、磁荷からブラッシの毛のように生えているのではなく、磁石をひとつのソレノイドに置換えて考えるとよいとし、 磁力線は、空間の各場所に固定している"エーテル"のゆがみなのであるという。さらに、"逆にいえば、磁石の回転が回路に電流を発生しない事実は、 磁荷が電荷のような実在ではないことを示唆しているともいえよう。"と述べる。
磁力線が磁石に固定していないという言い方は、磁力線を空間に固定した磁場の概念である。これでは電磁場のローレンツ変換が理解できないであろう。 磁場源の速度が無意味という証拠はないし、平行移動の運動では、明らかに有効であった。モノポールの非存在は、より直接的な実験で確認すべきこと であり、古典電磁気は、電磁場において対称的である。電磁気を教えるひとが、特殊相対論が完全に否定した ""エーテル"のゆがみ" という言葉を使う こと自体が信じられない。
霜田光一氏は、単極誘導を謎めいた現象としてとらえ、基本的には、"導体が磁力線を切るときに起電力が生ずる" というとらえかたで説明する。 その場合には導線に発生する起電力も意識することができ、磁力線が磁石に固定しているという仮定も、空間に固定しているという仮定も、 同じ結論が得られることを正しく指摘している。
(*) 訂正:ランダウ・リフシッツの電磁気学 I (東京図書)には、§49 磁場中の導体の運動 のなかで多少述べている。
正しく、"磁場中を運動する導体は電池である" という標語を作った、今井功氏の"磁力線の運動に意味があるか?" (丸善パリティブックス、"続 間違いだらけの物理概念"pp.123-142)では、 "磁力線の運動" への批判者としての立場で、 単極誘導については、導体の運動があるときだけ、電場が発生するとしている。 "円盤の帯電状態は、帯電した粉末をふりかけるなどの方法で容易に検証することができるだろう。 (どなたか、この実験をやっていただけないものだろうか。)" と書いている。
かれは、単極誘導を"磁力線の速度" への反証としてとらえ、霜田光一氏の"磁力線が磁石に固定しているという仮定も、 空間に固定しているという仮定も、同じ結論が得られること" を使って、磁力線の運動が不要な廃棄すべき概念とする。
一般の並進運動では、"磁力線の運動"が有効であるが、"磁力線の運動"よりは、並進の座標変換、ローレンツ変換がその本質である。 単極誘導で否定されるべきは磁力線の運動でなく、並進のローレンツ変換である。単極誘導は回転であり、円板上の点の並進慣性系 への変換はローレンツ変換できるが、回転系への変換では使えないこと、回転系の電磁気法則は慣性系とは異なることが重要である。
かれの電磁気は、磁場中の運動する導体内のローレンツ力による電荷の変移による電場を強調する。それは電流= 0 としたときの E + v x B = 0 とおいた式を根拠にしているが、電流があろうとなかろうと、導体内の電荷はローレンツ力を受けており、 それが磁場中を運動する導体の電位のもとである。しかも、電荷と並進する系がみる電場はかれのいう電場とは極性が逆である。
相対論からみれば、真空中においても電磁場のローレンツ変換による電場がある。それがもとの系からみたときのローレンツ力の正体である。 導体内は、その系の電場の中に置かれた導体としてみる方が単純である。その系では導体内部には電場はなく等電位で、その外に電場がある。 元の系にもどってはじめて、かれのいう"電池" になる。私には、そういう説明が要するほど、かれの電磁気は独特にみえる。 通常の電磁気の論理を使ったほうが、ずっと見通しがよい。ただ、電磁気の基本的な疑問、静止場の運動量の問題をとりあげ、 その解決に取り組んでいることを、高く評価する。
20. 磁場の源の速度が電場の効果をもたらすシナリオ
磁荷は存在しないため、Maxwell 方程式にはその項は省かれている。 Maxwell 方程式の rot B = dE/dt + i の電流密度 i にあたる項が、 rot E = -dB/dt - k の k (磁流密度)のように入りうる。ローランドの実験では、電荷の付着した円板を回転すると電流が存在し、それが定常的な rot Bを生み、定常的な磁場を生んだ。 それと同じく、磁石を磁気双極子の集まりとしてみると、円筒磁石の表面の円盤には磁荷が付着していて、 円盤が回転して磁流を生み、それが定常的な rot E を生む。この電場は上面と下面では逆方向であり、軸対称電場をもたらすのだろうか。 この磁荷を持ち出した説明は、あまり感心しない。磁荷を持ち出さなくても、相対運動だけで考えても、電場はあるのではないだろうか。
数 V にも達する電位を、いまどき測定できないはずはない。そんなものは中学校の教育用機材でも十分だと考える人は、 ほとんど電場というものを理解していない。この電場や電位は、空中電場や、ファインマンの地球磁場との相対速度を利用した速度計と同じで、 ループ状に発生しないために測定が難しい。ループ状電場なら数マイクロボルトでも測定できるが、空中電場は通常、100 [V/m] もある中での話である。
この話には、磁石の回転で電場ができるなら、Maxwell 方程式に修正が必要かもしれない、という重要性がある。 つまり、そばで磁石が回転しようと、div E は変わらないというのが、Maxwell 方程式であり、電荷なしに div E が出て来ては困るのである。
21. 電磁場に回転相対のない証拠
軸対称な系を考え、中心線に電荷があり、周囲にそれと同じ量の反対電荷が円筒状に分布し回転している。 周囲の外側には、磁場がある。そのため速度をもった電荷にはローレンツ力が働く。 ところが回転と同じ角速度の回転系では、全ての電荷が静止しているため電場も磁場もなく、 どんな電荷にも力は働かない。これは矛盾である。それゆえ、電磁場には回転相対はない。しかし、このような論証よりは、むしろ数式による摘出が必要である。 そうでないとどのような違いがあるかを全く明確にできないからである。
22. 回転系の電磁場
静止系に対して、W で回転している回転系の電磁場の Maxwell方程式はどうなるかを考える。 慣性系で Maxwell 方程式が成り立つことを利用して、回転系の電磁場の有り様を求めてみよう。 回転系の一点に並進する慣性系の電磁場をE', B'とすると、ローレンツ変換から、E'= γ( E + v x B ), B'= γ( B - v x E )
γ=√(1-v^2) は、定数のように書いたが、実は速度の関数であるだけでなく、 テンソルである。E' の式では E + vxB の速度 v と並行成分には働かず、 垂直成分にだけその値が働く。
E'//= E//, E'⊥= γ(E + v x B)⊥
最初、γを定数として扱い、その後でこれのテンソルとして扱う効果を考える。
ここで、分布する速度ベクトル v = const であるのが慣性系であり、v = W x R とするのは、 回転系である。両者の条件で、Maxwell 方程式がどのようになるか見てみよう。
23. 回転系の電場の発散
まず、E'= γ( E + v x B )の両辺の div をとり、div E'= γ( div E + div ( v x B ) )
Maxwell 方程式から div E = ρ と、公式、div (v x B)= B・rot v - v・rot B を使って、
div E'= γ(ρ + B・rot v - v・rot B)
rot v = rot( W x R )= 2 W、rot B = i + dE/dt を使い、
div E'= γ(ρ + 2 W・B - v・(i + dE/dt)) = γ(ρ - v・i) + 2 γ W・B - γ v・dE/dt
電流密度と電荷密度のローレンツ変換から、速度 v の系の電荷密度、 電流密度をρ', i' とすると、ρ'= γ(ρ- v・i), i'= γ(i- vρ)より、
div E'= ρ' + 2 γ W・B - γv・dE/dt
慣性系 W = 0 の定常電磁場 dE/dt= 0 では、div E'= ρ' となり、 Maxwell 方程式のひとつが成り立つわけだが、 慣性系で非定常とき dE/dtの項がどのように消えるのかは不明である。 電流密度と同じように電荷密度に還元されて欲しいものであるが、残ってしまう。
回転系では,定常電磁場でも、div E'= ρ' + 2 γ W B となって、電場の発散に、 2 γ W B が付け加わり、慣性系の電磁場とは違ってくる。 W と B の内積の 2 倍が通常は電荷密度だけがもたらす、電場の発散を生む。 これが、単極誘導の回転系の電場のもとである。
24. 回転系の磁場の発散
もうひとつのローレンツ変換の B'= γ( B - v x E ) の div を取ると、div B'= γ div B - γ div(v x E)
= 0 - γ(E rot v - v rot E)
= - 2 γ W E - γ v rot E
となり、回転系では慣性系では存在しない磁場の発散の項が存在する。慣性系の Maxwell 方程式から、rot E = - dB/dt を用いて、div B' = - 2 γ W E + γ v dB/dt と書くことができる。これらの div E', div B' の式は、E, Bを含んでいるが、 E= γ(E' - v x B') を時間微分した、dE/dt = γ dE'/dt -γ dv/dt x B' - γ v x dB'/dt を div E'= ρ' + 2 γ W B - γ v dE/dt に代入し、 div E'= ρ' + 2 γ W B - γ v ( γ dE'/dt -γ dv/dt x B' - γ v x dB'/dt )
右辺括弧内の、2 項目は dv/dt= 0 から、3 項目は v に垂直であることから 0 となるため、
div E' = ρ' + 2 γ W B - γ2 v dE'/dt
同様に、div B' = - 2 γ W E + γ2 v dB'/dt
これは、回転系には電磁気の基本である、荷電密度の働きをする 2 γ W B があり、 磁場にも発散 -2 γ W E があるという異様な世界であることを示す。
25. 回転系の電場の回転
E' = γ( E + v x B )の両辺の rot をとり、rot E'= γ( rot E + rot(v x B) )
= γ( -dB/dt + rot(v x B) )
= γ( -dB/dt + (B∇)v - (v∇)B + v div B -B div v )
慣性系の Maxwell 方程式から div B = 0 を使い、速度ベクトルは、慣性系でも回転系でも、 div v = 0 であるから、最後の2項は0となる。
rot E'= γ( -dB/dt + (B∇)v - (v∇)B )
右辺第1項と第3項は合わせて、速度 v 系の -dB/dt の全微分になる。第2項、 (B∇)v は、WxB となる。ベクトル v のB方向微分係数とは、
(B∇)v = ( (Bx d/dx + By d/dy + Bz d/dz)Vx, (Bx d/dx + By d/dy + Bz d/dz)Vy, (Bx d/dx + By d/dy + Bz d/dz)Vz )
であるが、v= W x R より
(B∇)v = (B∇)(W x R) = W x (B∇)R + ((B∇)W) x R
(B∇)R = Bであり、Wは一定ベクトルだから第2項は0を使って、
(B∇)v = W x B
rot E'= γ( -dB/dt - (v∇)B + W x B )
26. 回転系の磁場の回転
同様に、磁場の変換式、B'= γ( B - v x E ) の rot を取ると、rot B' = γ( rot B - rot (v x E))
= γ( i + dE/dt - rot(v x E))
= γ( i + dE/dt - (E∇)v + (v∇)E - v div E + E div v )
= γ( i + dE/dt - (E∇)v + (v∇)E - v ρ)
= i'+ γ(dE/dt - (E∇)v + (v∇)E)
= i'+ γ(dE/dt + (v∇)E) - W x E)
dE/dt + (v∇)E) は、速度 v 系の -dB/dt の全微分になる。
これらの式は、まだ、E' B' を使って書き表されてないが、様子は分かる。 回転系での rot E' は、磁場の時間変化から W x B 分減らされ、 rot B' では電流と電場の時間変化の和から W x E という項が減らされる。
rot E' の式は、内部に磁場の時間変化なしに、閉曲線上に電流がながれ、 rot B' の式は、内部に電流または電場の時間変化なしに、閉曲線上に磁場があることを示す。
27. γ の効果
E'= γ(E + v x B) の γ= 1/√(1-v^2) が v の関数であり、(E + v x B)の垂直成分 にだけ働くものを全方向に働く定数として考えたことの代償がある。 ここで、γ が空間に分布するスカラーとした場合、div E'= div (γ(E+vxB))= (grad γ)(E+vxB) + γ div (E+vxB)
であり、この式の第1項は一般に小さいと思われるが、これまでの解析では考慮されていない。
軸対称な速度ベクトル v をもつ回転系の場合、スカラーγ = 1/√(1-v2) の grad は軸から外に向く半径方向のベクトルであり、v と直交する。 その大きさは中心の近傍では中心線からの半径に比例する。
grad γ = v/(1-v^2)^{3/2}
(grad γ)(E + v x B) = (grad γ)E'/γ= v/(1-v^2) E'
それゆえこの項は、
div E'= ρ' + 2 γ W B - γ2 v dE'/dt
の問題の右辺の第3項を消去するものと予想したが、時間微分とそうでないものとの違いが残る。
28. 地球の磁場の原因
地球の磁場の発生原因は通常はダイナモ効果といわれる方法で説明される。 ファラデー板で発生した起電力からの電流を磁場を維持するコイルに導くという、 巧妙な構造を地球の内部構造に想定し、それが地球磁場の原因とするのである。ところが、太陽のように赤道の回転が極の回転よりも高速な、 一般的な導体の流体でできた球がダイナモになるのは、 コイルの向きと回転の向きが逆の場合であり、 ブラシが赤道円盤に付き刺さる方向の場合であり、 自然な流体の流れからの引きつれによる構造、 赤道円盤の動きにコイルが付き従っている流れの構造ではダイナモにならないのである。 つまり、地球磁場の原因とされているダイナモは、 自然な流体の構造とは逆の場合に動作するものであり、 電磁気の教科書的なダイナモによる説明は、間違っているかもしれない。 そこで、導体のファラデー板だけで磁場を説明することを試みた。以下がその考察である。
地球は北極が S 極をもち、南極が N 極をもつ磁石となっている。 北極を上とすると上から下への地球内部の磁場 B がある。回転は左回りであるから、 赤道面のファラデー板では各点の荷電は中心からの距離 r に比例するローレンツ力を受ける。 移動できる荷電である電子は外向きに力を受ける。
ファラデー板から電流を取り出さないとき、電荷が静止するためには、 円盤中の任意の点で電場とローレンツ力は向きが反対で同じ大きさを持つ。 電場 E は電子を内側に引き寄せる、外向きの電場であり、その大きさは r に比例する。 このような電場をもたらす電荷分布は、一様なプラスの電荷分布である。 一部の自由電子が外にはり付き内部を一様なプラスの電荷分布にし、 マイナスは円盤の端面に集まり、地球の赤道面に表れる。
地球の自転は 24 時間で一周である。地球の半径を 6.5 x 10^6 m とすると、 赤道上での接線速度は、472.7 m/sec である。地球磁場を 0.4 gauss= 0.4 x 10^-4 [T] とすると、E = v x B = 0.01891 v/m である。計算を簡単にするため、地球内部では、 磁場は一様とし、ローレンツ力に対抗する電場は半径に比例して中心から増大するとすると、 赤道の電位は、電場の積分であるから、 6.5 x 10^6 (m) * 0.01891 (v/m) /2 = 61450 (v) であり、 粗く地球の静電容量を C= 0.1 F とすると、 地球の表面に溜っている電荷は、 Q= CV= 6145 (Coulomn) である。これが赤道の接線速度 472.7 m/sec で動いていると、 その全体の電流は、QV= 2.9 x 10^6 A となる。 内側に同量のプラスの電荷が同じ方向に回っていることによる低下を無視すると、 この大きさは地球磁場を維持するのに十分な大きさであろうか。
電流 I [A] の流れる、半径 r [m] のコイルの中心の磁場 B は、 3.14 x 10^-7 x 2 x I / r [T] であるから、 I= 3 x 10^6, r= 6.5 x 10^6 から、(2 x I)/r = 1 程度である。 これから B = 3 x 10^-7 [T] = 3 x 10^-3 gauss である。 最初に改定した 0.4 gauss と比較すると これはその 1/100 である。
必要な磁場の 1/100 にしかならないため、この考え方は、放棄するべきだろう。 地球が空心の電磁石でなく、 内部に鉄を含む電磁石なら磁場は100倍位の大きさになることはすぐにできるが、 地球のコアの鉄は熱と圧力で熔融して磁性体ではないだろうから、その場合は、 表面の地殻とマントルの成分だけに期待するしかない。 それが地球磁場を説明するほどに透磁率が高いという期待は少々無理がある。 しかし、ダイナモによる説明が、それより説得力があると言うわけでもないように思う。
29. 公転軌道上の電場
つぎに地球の公転速度の大きさからの考察であるが、 地球の公転軌道上に静止した荷電がみる電場の大きさを考える。 地球の公転速度は半径 1.5 x 10^8 km x 6.28/365/86400 = 30 km/secであるが、 0.4 x 10 ^-4 T の地球表面磁場がこの速度で飛んでくるとき 1.2 V/m の電場となる。 この大きさは前の自転速度のもたらす電場に比べてはるかに大きいもので、 方向は、地球の昼側と夜側に分離させるものである。 これによって説明できる現象はかなりあると推測される。よく、地球磁場が荷電粒子を巻き込んで、北極と南極の空にオーロラを形成する話は、 誰もが聞く話であるが、荷電粒子がみる地球の昼側と夜側への分離は、 あまり聞かない話である。これは少し考える値打ちがあるかも知れない。
30. ファラデー板の磁場
外部に磁場の種があるとき、回転するファラデー板自体が、磁場を生み出すことは、 すでに述べたが、ファラデー板から内部から表面への移動電荷量 Q が、 w と B に比例し、発生磁場が、ファラデー板の角速度 w と Q に比例すると、 磁場は外部磁場 B_e と発生磁場 B の和であるから、Q = c_1 ( B_e + B ) w
B = c_2 Q w
とすると、
B = B_e /( 1/(w^2 c_1 c_2) -1)
となって、ある w のとき、B が無限大になるというおかしなことになる。 Qがwに比例するのは 1 次近似であり、電荷移動量には制限がある。これの扱いは、 より正確にする必要がある。
磁場 B(r) と、電荷密度 ρ(r) が半径に依存するようにし、外部磁場 B_e は一様とし、 ファラデー板は十分に大きく系全体が軸対称、つまり軸からの距離 r だけに依存するとする。 速度が半径に比例する固体の場合を考える。半径 r の位置の荷電密度を ρ(r)とすると、 内部から円筒表面 r = R への移動した長さあたりの電荷量 Q は、 2 π で割ると、
Q = - ∫_0^R ρ(r) r dr
である。半径 r の位置の電荷密度 ρ(r)と、磁場の大きさ B(r)の関係は、次のようになる。
ρ(r) = - 2 w B(r)
これは、円筒の内部電荷と、円筒の側面電場とが等しいこと(ガウスの定理)と、
π∫_0^{r_0} ρ(r)r dr = 2 π r_0 E(r_0)
ρ(r)が一様な場合は、
π r^2 ρ = 2 π r E(r)
ローレンツ力と電場とがつり合うこと、
E(r)= -w r B(r)
の両者で求まる。正確には、次の式である。
∫_0^{r_0} ρ(r)r dr = -2 w r_0^2 B(r_0)
軸を含む平面内で、r_0 から R まで一順する経路を考えると、 軸から r_0 の位置の B(r_0) は、 その経路内の電流と外部磁場の和で求まり、
B(r_0) = w ∫_{r_0}^R ρ(r) r dr + w Q + B_e
= - w ∫_{0}^{r_0} ρ(r) r dr + B_e
この場合は、中心の最大磁場が、外部磁場に等しくなる。外周の Q を ρ(r)に含めれば、
B(r_0) = w ∫_{r_0}^R ρ(r) r dr + B_e
となり、 r_0 = R で、 B_e に等しくなる。これから、 ρ(r) の r についての微分方程式を得る。
ρ(r)'= -2 w^2 ρ(r) r
ρ(r)= -2 w B_e exp( w^2 (R^2 - r^2) )
B(r)= B_e exp( w^2 (R^2 - r^2) )
ただしこれは、 ∫_0^R ρ(r)r dr = 0 を満たしていないようだ。
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