本を通してバリアをなくす-服役中の父親と子供の絆づくり-
2009年8月25日
IFLA(国際図書館連盟)年次大会2009(ミラノ、イタリア)
特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会
ヴィベッケ・リーマン(Vibeke Lehmann)
アメリカ合衆国
ウィスコンシン州 マディソン市
図書館・教育技術コンサルタント
これから、「本を通してバリアをなくす」("Breaking Barriers with Books")についてお話します。これは、刑務所内の世代を超えた画期的な識字・読書プログラムで、アメリカ合衆国ウィスコンシン州のオシュコシュ矯正施設(Oshkosh Correctional Institution)で14年間にわたり実施され、成果を上げてきました。ウィスコンシン大学読書学教授のマーガレット・ジェニシオ(Margaret Genisio)博士によって1995年に開発されたこのプログラムの理論的な枠組みを簡単に紹介し、プログラムのさまざまな要素について、さらに詳しく検討していきます。
さらに、プログラムに参加した父親受刑者らが記した文章もいくつか実例としてお聞きいただき、合わせて、受刑者ら自身とその子供たちにとって、一緒に本を読むというこのプログラムが重要であることを語った受刑者たちの証言も聞いていただきます。また、このプログラムの成功に貢献するいくつかの要因についても論じるつもりです。
Breaking Barriers with Booksはどのように始まったか
1996年、ウィスコンシン州の大規模でセキュリティレベルが中程度のオシュコシュ矯正施設(OSCI)で、何やら新しい、わくわくすることが、多くの受刑者の好奇心を掻き立てていました。色鮮やかな児童書を持ち歩いたり、実際に声を出し、身振り手振りを交えて、おかしな顔をしながらそれを読んだりしている受刑者の姿が見られたのです!これらの人々は、"Breaking Barriers with Books (BBWB)"への参加登録をしたのだという噂がすぐに広まりました。これは、少人数のボランティア受刑者たちによる前年度の試行が成功したことを受けて、今では本格的に実施されているプログラムでした。児童書を抱えている人たちは、朗読活動や本についての語らいを通じて子供たちと絆を結ぶことについて、さらに深く学びたいと切に願っていました。
これらの受刑者たちが、男ばかりの刑務所という、タフで強靭なイメージを周りに与えるのが何よりも重要とされる雰囲気の中で、この「子供たちとの」プログラムに登録するのは、勇気がいることでした。その上これらの父親受刑者たちは、それ以前に児童文学に触れたことはなく、朗読活動がどういうものなのかもまったくわかっていませんでした。「フレディ」・ジャクソ ン("Freddy" Jackson)は、登録はしましたが、このプログラムが自分のためになるとは、すぐには納得できませんでした。結局のところ、自分の成長過程において、誰も本を読んではくれなかったのですから。そこで、5週間の授業(必須要素)のうち、最初の2,3週間、彼は一言も発しませんでした。「もちろん、自分のマッチョなイメージのためでした」と彼は話していましたが、その後、「自分の間違ったプライドをたたき壊しました」と認めました。彼は次に、自分の2人の子供たちのために、子供向けのシリーズ本を朗読し、数本のビデオテープを製作しました。ビデオは、遠くに住んでいて、彼に会いに来ることができない子供たちのもとへ、心を打つ詩と手紙とともに送られました。「父さんはいつだってお前たちを愛している。深い、そし� �本物の愛で。お前たちは神様からの贈り物だ。そしてこれが、父さんからお前たちへの贈り物だ」というのが、彼が記した言葉の一部です。彼はまた、読んでいる本について子供たちと電話で話をします。「このプログラムは私に、ついに立ち上がり、男としてあるべき姿にならなければならないということを教えてくれました。それは、子供たちにとって本当の父親になるということです」とジャクソンは語ってくれました。
クリス・プライス(Chris Price)は、初めて幼い息子を膝に座らせて、お話を読んでやったとき、父親としての喜びを初めて感じました。「その日、本を読んだ後で、子供が私のところから歩いて行ってしまった時、涙が出ました」とプライスは言いました。「今では私たちはいつも本のことを話しており、いつの日か田舎をドライブして静かな場所を見つけ、一緒にただ座って本を読むことができたらと夢見ています。」
13年後の今日、BBWBはOSCIで今なお順調に活動を続けており、総合教育プログラムと図書館サービスで常に知られてきたこの施設だけで、数百人もの受刑者たちがプログラムに参加してきました。プログラムは大きな成功を収め、ウィスコンシン州のほとんどすべての刑務所に(ときには若干異なる形態で)導入され、アメリカ合衆国の他の多 くの州でも、同様なプログラムのモデルとして役立てられてきました。また国際矯正教育協会(International Correctional Education Association)を通じて、諸外国からの問い合わせも受け付けてきました。
BBWEはウィスコンシン大学オシュコシュ校のマーガレット・ジェニシオ読書学准教授によって開発され、ジェニシオ准教授はその後、このプログラムの成功で全国から注目されるようになりました。「読書学と識字学が私の専門ですが、父親によりよい親となる方法を教えるために、それらを利用するというアイディアが浮かんだのです」と彼女は語りました。「刑務所に入っている人たちの多くは、子供との絆を築くことの重要性や、子供と一緒に本を読むことがどれだけ大切かを、それまで一度も教わったことがありませんでした。もし子供たちが非常に幼いころから本を読み始めれば、それは日々の習慣となります」とジェニシオは言いました。「そしてもし親たちがそのお手本になれるなら、それはとても、とても大きな力を� �揮します。矯正制度においてそれは、ともすれば多くの思い出を持たない父と子の間に、非常に肯定的な記憶を作ります。」「子供たちに、ただ面会室に来させて跳ねまわらせる代わりに、これらの人々は本を読み、子供たちと素晴らしい時間を共有しています」と彼女は付け加えました。「彼らはまた、刑務所を出てからも続く関係を築いているのです。」
興味深いことに、当初ジェニシオが刑務所内での識字プログラムの開発に関心を持った際、彼女はただ受刑者の識字スキルの向上のみに焦点を絞っていました。しかし、6ヶ月の間刑務所の生活を観察したのち、父親受刑者たちには、子供たちとの関係を築くための支援が必要であること、つまり、彼らは「子供たちとの思い出作りや会話など、相互関係を維持していくための� ��媒を必要としている」ということに気付いたのです。このようにして、幅広い、多面的な、世代を超えた読書・識字プログラムに、子供主体の要素が盛り込まれました。
刑務所内で父親が子供と一緒に本を読むプログラムの必要性
ありのままの数字をいくつか見れば、BBWBのようなプログラムが必要であるのは明らかです。
ああ、場所は、DRで行きます。
- 約250万人のアメリカの子供たちは、親の1人が拘置所あるいは刑務所に入っている。
- アメリカの子供たち100人に3人は、親の1人が服役中である。
これらの子供たちは、親の犯罪の代償を支払っているのです。多くの子供たちは、高齢で、しばしば経済的な問題を抱えている祖父母によって育てられています。子供たちはたびたび官僚主義の迷路に迷い込み、児童養護施設をたらいまわしにされます。服役中の親の多くは、母親も父親も、子供の親権を失います。そして彼らの多くは、薬物乱用、経済問題、低学歴、家庭内暴力などのために、そもそもお手本となる親ではなかった可能性があります。
実刑判決で服役することは、まったく皮肉なことではありますが、多くの場合、これらの親に、正しい親としての情報とスキルを身につけ、学校へ通い、本を読み、そして家族の絆について考える初めての機会を提供することになります。多くの研究から、健全な家族の絆と� ��習的犯行の減少との正の相関関係が明らかになっています。BBWBのプログラムは、父親受刑者に、刑務所外での家族関係の構築あるいは再構築の機会を提供します。この点において、またほかの点においてもそうですが、服役は受刑者に対して、自分の人生を方向転換するための、つまり新たな出発への、動機と支援とを提供するのです。
BBWBの試験計画の成果についてお話しする前に、こちらの引用文をお読みください。
親業についての引用
「おそらく親としてもっとも重要な仕事は、よき価値観と人生哲学を子供たちに伝えることであろう。それは世界をよりよい場所とするための最高のチャンスであり、そのようにして子供たちが人生の困難な試練をうまく切り抜けていけるよう助けるのである。」
ピーター・ハーブスト(PETER HERBST)
ファミリー・ライフ誌(FAMILY LIFE)
1996年-1997年冬号(WINTER 1996-1997)
試験プログラム
初期の試験プログラムの評価から、多数の好ましい結果が確認されました。特に、
- 受刑者の家族の面会における子供たちの参加の増加
- 施設内での受刑者による子供向けの本の製作
- 自主的な子供との読書活動と親の会の継続から明らかなように、プログラム参加中および参加後の親意識の向上
- 児童文学への関心の高まりと関連情報の要求の増加
協力
これらの成果を受けて、BBWBは効果的かつ恒久的な矯正プログラムとして確立されることとなり、プログラム立ち上げ資金と継続資金の両方を獲得することができました。
もう1つ、BBWBの当初の計画と実施において重要であった要素は、大学側のマーガレット・ジェニシオと、OSCIの運営陣およびスタッフの間で育まれた密接な協力関係でした。両サイドからのこの支援と善意がなければ、プログラムは決して成功しなかったでしょう。
「よそ者」が刑務所という環境の中へ新たなプログラムのアイディアを導入することは容易ではありませんが、OSCIは1986年の創立当時から、教育と更生に対する進歩的な考えと革新的なアプローチのモデルとなってきました。この世代を超えた新たな識字プログラムは、その親業という要素と� ��もに、刑務所長、教官、教育主任(education director)、図書館スタッフ、ソーシャルワーカー、治療スタッフ、制服を着た刑務官ら、すべての機関と、そしてもちろん父親受刑者自身らによる全面的な支持を得ていました。
ジェシカ・フィッツパトリック(Jessica Fitzpatrick)は、バーバラ・ブッシュ家庭識字運動基金(Barbara Bush Foundation for Family Literacy)が資金提供した中で、もっとも成功し、長期間実施されている識字プログラムについて現在執筆中ですが、OSCIプログラム(同基金が立ち上げ資金として2万ドルを提供)について、次のように語っています。「この刑務所は、とても進歩的な考えを持っています。彼らは刑務所の中の人たちのことを考えていますが、同時にその子供たちのことも考えています。それは先進的な考え方です。」立ち上げ資金は、最初に揃える質の高い児童書を購入し、録画装置を入手するために使われました。追加資金は大学から提供されました。そして補助金が底をつくと、OSCIがプログラムの全資金と人材の負担を引き継ぎました。
Breaking Barriers with Booksの組織と構成要素
BBWBのおもな目的は、
危機状態にある子供たちが、ストレスの多い(親の服役など)期間中、父親との絆が弱まることがないようにし、その一方で、世代を超えた文学の共有を媒介に使用することにより、肯定的な記憶を形成する経験を作り出し、さらに家族の絆を強化するための文学の利用に焦点を当てることです。またこれに関連する目的として、子供たちに読書の習慣をつけるよう指導し、生涯続く経験としての読書の喜びを味わわせることがあげられます。
プログラムの5つの目標
プログラムの5つの壮大な目標は次の通りです。
- 家庭とほぼ同じように、子供が父親と文学を楽しむ機会を提供すること
- 子供が父親との絆を強め、肯定的な思い出を作る機会を提供すること
- 父親に、子供との読書や、その他の楽しい親子活動に利用できる、確固とした情報基盤を提供し、父親としての能力の向上をはかること
- 受刑者に、父親による父親支援グループのモデルを提供し、将来出所した後に同様な組織を結成できるようにすること
- 父と子の双方の識字スキルの向上をはかり、さらに読書を楽しめるようにすること
プログラムの構成要素
プログラムでは、5週間のコースを1年間に7回実施することになっています。各コースには10人から15人の受刑者が参加します。そして、どのコースでも以下の内容を実施しますが、これらはすべて先ほどお話しした目標に関連しています。
- 父親受刑者を対象とした授業/ワークショップ:合計10時間が、2時間ずつ5週間にわたって実施されます。指導は、施設の図書館司書および/または施設の教官が行います。
- 子供と読む本を父親が選択し、朗読の練習をします。
- 子供が個人的に面会に来ることができない父親は、朗読をビデオテープに録画します。
- 親子の相互関係:スタッフの監督/スタッフの指導のもと、合計5時間(週1時間ずつ)の父親と子供による読書活動を行います。
- 父親受刑者は、親としての経験、面会時の読書活動、BBWBへの参加について考えることや感じることなどを日記に記します。
- 施設内で子供向けの本を製作します。
- 父親の支援グループの会を開きます。
lachieヒュームは何歳ですか
公式の授業とワークショップで、指導者は子供と一緒に本を読む際のお手本を見せ、素晴らしい児童文学の数々を検討します。児童心理学や児童発達学の要素も、年齢に適した図書の選択と関連があるので論じられます。父親は、子供が物心ついたときから小学校レベルまで、よき読書家としてのお手本となり、また子供の識字能力向上のための支援者になることに関して、情報を得ます。
また、BBWBで利用できる図書の特徴が論じられ、それぞれの本を使用してできる「発展」活動を考案する方法についても話があります。参加者は、アフリカ系アメリカ人の父親が4歳の娘と一緒に本を読み、それについて話し合っているビデオ映像を見、文章の解釈、文章を個� ��的な経験に結びつけること、他の文章に関連づけること、さまざまな節の説明や強調、結末の予想、そして歌を歌ったり、絵を描いたり、コラージュや粘土の人形を作ったりするなど、本に関連した活動を考えることに焦点を絞った学習ガイドを提供されます。その後、それぞれの父親は本を選び、他の父親や指導者と協力して、子供との読書の時間の計画を練ります。
授業/ワークショップのその他の内容としては、さまざまなタイプの詩の書き方や個人日記の記し方などがあります。父親はまた、施設内で製作される子供向けの本に掲載される規定の文章の執筆についてアドバイスを得ます。製作された本は、それぞれの父親の子供に贈られます。
これは、今年製作された本の1冊の表紙です。父親たちが写真に写っています。
授業を通じて知識とスキルを身につけた父親受刑者らは、ついに面会室で子供たちと一緒に本を読む準備ができました。各参加者は子供と本を読むために、週1時間面会時間を追加され、この活動のために別の場所が用意されます。面会室には児童書が別に揃えられています。長年にわたり、OSCIやその他の施設の面会場所では、子供向けのゲームを利用することができ、子供用の家具が置かれ、壁には色鮮やかな装飾が施されてきました。
一緒に本を読む活動は、父親が中心となって行いますが、子供の母親や、それ以外の付き添いの大人の参加も歓迎されます。子供たちはその週の間、読書を続けるために、家に本を持ち帰ってもかまいませんが、次回の面会時には返却することになっています。
BBWBがOSCIで活動を始めた時 には、小学校教師の資格も持っていた図書館司書が、マーガレット・ジェニシオと協力して最初に揃える児童書を選びました。プログラムが進展するにつれて、刑務所の教官の中にも図書の選択にかかわる者がでてきました。現在では、新刊図書の多くを外部の寄贈者ネットワークを通じて入手しています。
父親受刑者が、自分自身の子供時代に気に入っていたお話や本を思い出し、選ぶ本を提案してくれることもよくあります。刑務所内の図書館では、少なくとも1冊は父親が借りるために、そしてもう1冊は面会室用に、同じ本を複数冊入手しようと努めています。
蔵書は数千冊で、赤ちゃん用の触わる本から青少年向けの本まで、詩も含めて、幅広い種類の多文化にわたる図書が含まれています。また、スペイン語の図書も非 常に多く取り揃えています。面会室での図書利用記録は刑務官がつけています。面会室の蔵書は、BBWBの参加者だけでなく、面会に来たすべての子供たちも利用できます。
父親の中には、遠くに住んでいたり、スケジュールが合わなかったりして、面会に来ることができない子供たちのために、朗読しているところをビデオに録画する人もいます。これらの収録は常にスタッフの監視下で行われ、「不適切な」言葉や行動が示されること(例 ギャングの印を一瞬見せること)が決してないようにします。
父親は、単に本を読むだけでなく、ページをめくりながら、その面白いところについて話ができるように、収録の準備をすることが求められます。受刑者は、本に関係のある扮装をするために、おかしな帽子をかぶったり、装身具をつけたりしてもかまいません(例 ドクター・スース(Dr. Seuss)作『帽子の中の猫(The Cat in the Hat)』)。
現在ではデジタルビデオカメラが使用されており、DVDがビデオテープに取って代わりました。子供が本を読みながら映像を見られるように、DVDは本のコピーとともに家庭に送られます。本は2週間後、施設に返却しなければなりませんが、DVDは、その代金(郵送代)として父親が数ドルを支払ったので、子供が持っていてかまいません。
BBWBが始まったばかりのころは、子供たちのためにおまけがついていました。ウィスコンシン州で設立されたアメリカンガール社(American Girl Company)が、同社の高価で人気の高い人形をOSCIに数百体寄付してくれたので、プログラムに参加した父親受刑者は、子供に誕生日やクリスマスのプレゼントとして人形を一体選び、贈ることができたのです。いうまでもなく、これらの贈り物はとても人気がありました!
これは、ドクター・スースの本、『帽子の中の猫』を朗読し、ビデオテープに録画している父親です。
ある父親受刑者は、初めて朗読を収録した経験について、日記にこう記しました。
「今日、実に初めての朗読を収録した。はじめは少し緊張していた。自分の声がどんなふうに聞こえるかと思って緊張したのだ。さもなければ、たぶん簡単な言葉を間違えてしまうだろうとか、自分がカメラの前でどう見えるだろうかとか。そして本当に、緊張していたのは多分ばれてしまっただろう。でも、最初の本を読み始めたら、準備のために前に読んだことがある本なので、居心地がよくなってきたことに気付き、本当に熱中し始めてしまった。あふれる熱意を見せながら、おかしな登場人物に次々となりきっていく一方で、息子がこれを見たら、父さんはなんてばかなんだと思うだろうと想像し、突然笑いたくなるのをこらえていた。そして、もっと苦労しなければならなかったのは、涙を抑えることだった。息子が実際に これを見れば、父親をどれだけ誇りに思うか、ちゃんとわかっていたからだ。この経験は私の想像力を、これまで、そう、決して想像できなかったほどにまで高めてくれただけでなく、自力で本を読む旅を続ける気にさせてくれた。2回目の収録のためにあのカメラの前に戻るのが待ちきれない。」
ルモント・カークパトリック(Rumont Kirkpatrick)の日記より
父親は、BBWBのプログラムに参加している間、日記をつけることが義務付けられており、プログラム終了後もこれを続けるように言われています。日記は、父親受刑者と指導者の間でやりとりします。父親には2冊の何も書かれていない日記帳が渡され、プログラムやその週の子供たちとのやり取りについての感想を記すよう求められます。
ここで、iは、子供がそれを呼び出し読み取ることができますか?
また父親には、忘れられない思い出、子供たちにかかわる面白い出来事、父親として楽しんでいること、子供たちと行きたい場所、お気に入りの本など、書く内容の例も示されます。毎週、1冊の日記を指導者に提出し、父親はもう1冊の方に書き続けます。指導者は日記にコメントを付けて返しますが、日記の内容は、プログラムの評価と施設内で製作される子供向けの本のための原稿の両方に利用されます。
これは、本を一緒に読むことが、親と子の双方の心理に与える影響をはっきりと示している、別の日記の記述です。
リチャード(Richard)の日記
「今日、"Breaking Barriers With Books"を紹介する映像を見た。映像では、数人の親が子供たちに読み聞かせをしていた。なんて楽しい思い出だろう。妻のパメラ(Pamela)と私が、エミリー(Emily)とベンジャミン(Benjamin)に読み聞かせをして過ごした頃のことが皆よみがえってきた。映像が終わりに近づくと、ベンジャミンと同じ年頃の幼い男の子がこう言った。「パパ、もう一回読んで。」そして私は泣きたくなった。エミリーやベンジャミンから何度も聞かされたその言葉を耳にして、悲しくなったのだ。今、2人からその言葉を聞けるのなら、私は何でも捧げるだろう。心の底から、エミリーとベンジャミンに会いたい。
このことについてしばらく考えてから、私は自分がとても幸運であることに気付いた。服役して以来、私は自分の子供に会ったことすらな� �人、ましてや子供を抱き締める特権もなく、子供と本を読む喜びを分かち合うこともできない人にたくさん出会ってきた。私は自分の子供たちと私が、一緒に本を読むことで、たくさんの素晴らしい楽しい思い出を共有していることを知っている。今でも、『緑の卵とハム(Green Eggs and Ham)』を読んだ時の、2人がクスクス笑う声が聞こえる。」
この本には実際には2つのバージョンがあります。1つは共同版で、すべての父親の作品(詩、手紙、日記の抜粋、エッセイ、絵、写真)がサンプルとして掲載されています。そしてもう1つのバージョンは、それぞれの父親が自分の子供のために個別に製作したもので、子供はこちらの本を贈り物として受け取ります。
これは父親たちによって製作された本の表紙のサンプルです。
別の本の表紙です。
父親たちは、ワープロやグラフィックソフトを備えたコンピューターラボを利用しています。そして、このようにして自主製作された本の品質は非常に高くなっています。
コンピューターラボで作業しています。
いくつかの作品は、プログラムから得られた洞察のレベルの高さと、親の愛は距離と長時間の不在をも乗り越えることを示しています。
デニス・ドレイヴズ(Dennis Draves)の詩
父の「私的な人物像」
かつて 私は時の中に閉じ込められていた
今 私は時代の中を動いている
かつて 私は自分を見失っていた
だがその後 人生の新しい道を見つけた
1つ願いを持てるならば それは
昔の生き方から自由になること
もし 世界を変えられるならば
人々の心の内を自由にしてやりたい
かつて 私は自分を見つめることができなかった
だが今は 成功した私が見えるだろう
落ち込むことが多かった私だが
今 新たな始まりを迎えている
1つ学んだことは
立ち止まれ そしてまず考えろ
かつて 私の心は弱かった
だが今 私の意志は強く 心は安らいでいる
デニス・ドレイヴズ(Dennis Draves)(父)
そしてこれが、娘に宛てた父親の詩、いわゆる「バイオポエム(bio poem)」といわれるものです。
チェルシー(Chelsea)の「バイオポエム」
チェルシー
お姫様 かわいらしい やさしい かしこい 心は愛でいっぱい
ショーン(Shawn)とアイダ・レイ(Ida Rae)の娘
学校と キャンディーと ママとパパを愛している 美人さん
ハッピーで いつもお腹をすかせていて そして不器用で
パパがいないと怖くって 遊ぶ時間がなくなるのが嫌で 悪い成績をとるのが心配だけど
まわりのみんなに 喜びと 愛と 幸せをもたらしてくれる
パパに会いたくて、会いたくて もっともっと 会いたくて
ウィスコンシンのケノーシャ(Kenosha)で生まれた君
BBWBに参加している人々は、毎週、父親支援グループの会合を開きます。図書製作の企画と執筆の多くは、これらのグループ会議の際に行われます。父親はグループリーダーと本の編集者を選びますが、協力し、意見をまとめることが強く求められます。プログラム全般に関する議論も、子供や家族に関する問題への対処法とともに、議題に上がることがあります。
BBWBが長年にわたり発展を遂げ、ウィスコンシン州の他の刑務所にも導入されるにつれて、支援グループはおもに図書の製作に焦点を絞るようになってきました。現在OSCIでプログラムを運営している教官は、出版すること自体に加え、図書プロジェクトの利点の1つとして、チームワークや妥協、そして忍耐を学ぶことを強調しています。
Breaking Barriers with Booksに参加する父親受刑者は、どのように選ばれるのか?
参加を希望する受刑者は、3歳から12歳までの子供を持つ父親でなければなりません。また子供は父親の面会人として承認され、面会人リストに掲載されていなければなりません。1人の父親が参加させられる子供は3人までです。そして、それぞれの父親は、申込書の記入をすませ、刑務官と教育スタッフによる審査を受けなければなりません。プログラムに関するパンフレットは施設内いたるところで入手できますが、口コミが一番効果的な宣伝となります。BBWBは非常に人気の高いプログラムで、長い順番待ちのリストがあります。児童性犯罪で有罪となった受刑者には参加資格がなく、性犯罪者の場合は長期にわたる性犯罪者治療プログラムを終了した者だけが申し込めます。そして各受刑者の詳しい事情が綿密に調査されます。
プログラムや面会室の規則に従わない父親は、プログラムへの参加を取り消される場合があります。また父親は、自分の子供の行動をコントロールできなければなりません。
BBWBは、ウィスコンシン州の矯正施設に導入された、初めて子供に焦点を絞った読書プログラムでしたが、そのほかにも同様な、あるいは関連するプログラムが、これ以降導入されてきました。大きな成功を収めたプログラムが1つあれば、それが証となり、他の現場が追随することはよくあります。OSCIプログラムについての噂はすぐに、他の現場の教官、図書館司書、教育主任(education director)、および刑務所長のもとへと届きました。BBWBのモデルは、既存のプログラムに対する論理的な強化と考えられ、新たな"Fathers Sharing Books" というプログラムが設けられました。これには、オリジナルのBBWBモデルのすべての要素がすべて盛り込まれる場合もあれば、そうでない場合もありました。
法務教官の中には、Motheread/Fatheread Inc.の研修を受けた者もいます。これは、識字スキルの指導を、児童の発達と家族の力の向上という課題に結び付け、全国的に高く評価されている民間の非営利組織です。親と子は、自分たち自身と家族、そして地域社会について、さらに多くを発見するために、言葉の力を利用することを学ぶのです。
読書の「方法」を強調するのではなく、むしろ「理由」を教えることによって、授業では親に、読書をする人として子供たちのお手本となるよう促します。子供たちにとっては、読むスキルや批判的に考えるスキル、そして問題解決のスキルを学ぶための構造化された環境を提供してくれる、物語の世界の探検という要素があります。MR/FRの会員となるには、地域の組織や施設にファシリテータ-として公認のスタッフがいることと、 その他の厳しい基準を満たすことが必要です。
MR/FRのプログラムに関連して、刑務所の教官と図書館司書数名が共同で、親である受刑者のディスカッショングループのために、児童書のシリーズを複数冊購入する補助金を獲得しました。
Reading is Fundamental (RIF)は、ウィスコンシン州だけでなく、その他の多数の州の刑務所内で成功を収めた、別の読書プログラムです。RIFは、無料の本と読み書きのための資料を、それらをもっとも必要としている子供たちと家族に配布することによって、子供たちが読むための準備をし、読書への動機付けをしています。1966年に設立されたRIFは、アメリカ合衆国最古にして最大の、子供と家族のための非営利識字団体です。RIFは450万人の子供たちに、毎年1600万の新しい無料の図書と読み書きのための資料を提供しています。
RIFのプログラムはすべて、子供の識字能力を育成するための3つの本質的要素、すなわち、読みたいという意欲、家族と地域社会の関わり、そして無料の本を選んで借りる喜びを結びつけたものとなっています。ウィスコンシン州 では、受刑者はRIFの図書を子供たちにプレゼントとして贈ったり、あるいは面会室の蔵書の一部にしたりすることができます。
矯正施設内でBBWBと同規模の効果的な読書・識字プログラムを構築するのは困難です。プログラムは、適切な調査と実績のある方法を基に築かれなければなりません。一般社会において実績が証明されているプログラムを、刑務所という環境に適合させることは、サービスを提供するのが刑務所のスタッフであれ、外部の図書館システムであれ、あるいは地域のボランティアであれ、よいスタートとなるでしょう。
戦略的な計画のプロセスが必要であり、プログラムのあらゆる局面と、これらの要素を提供する順番も明確にしなければなりません。また、その責任を負うスタッフも明らかにしなければなりません。
効果的に評価することができる、限られた範囲内での小規模の試験計画から始めるのが賢明です。新たなプロ グラムを既存のプログラム/サービスと関連付けるのもよいアイディアです。それが論理的にプログラムの向上や拡大となることを示しましょう。
予算の準備もしなければなりません。一度限りの立ち上げ資金だけでなく、継続的な運営資金も必要です。試験計画の結果(もし成果があれば)を使えば、資金調達も容易となるかもしれません。プログラム主任として特定の人物を任命するとよいでしょう。
スタッフがプログラムに対して熱意をもって貢献することは極めて重要です。プログラムをスタッフに宣伝することは、受刑者から参加者を募ることと同様に重要です。関係者は皆、なぜ読書と識字が重要なのか、そしてプログラムが父親受刑者とその子供たち、家族の人生と、外部の社会にどのような利益をもたらすことが� ��きるかを理解しなければなりません。
刑務所の運営陣は、プログラムを全面的にバックアップし、刑務官に、プログラムの成功には彼らの協力が不可欠であることを、必ず理解させなければなりません。いくつかの警備上の規則や手続きの変更が必要な場合があり、その実現が難しいこともあるでしょう。ですから、更生に関する確固たる理念を掲げた、進歩的な運営陣とともに取り組むことは、プログラムの成功に絶対不可欠なのです。
父親受刑者の証言
父親受刑者自身の言葉ほど、子供と一緒に本を読むというこのプログラムの成功の証となるものはありません。
ここに1つの作品をご紹介します。
「私はいつも、子供はとても幼い時に読み方を習うべきで、それは子供が学ぶための基本だと、強く信じていた。本は子供の一番の友だちになれる。子供はお手本から学ぶ。まさかと思うだろうが、子供は自分の親のようになりたいと考えているのだ。そして私たちは親として、そのための良いお手本を示さなければならない。その1つの方法が、子供たちに、自分は読書が大好きであることを示し、子供たちが読む本に興味を持つことである。今日の子供たちは、明日の大人たちで、明日は私たちの未来なのだ。もし今日の子供たちを失ったら、私たちは未来を失うことになる。…私は、この価値あるプログラムに時間を捧げてくれた指導者の方々に、心から感謝したい。どうもありがとうございました!!!」
ラモント・D・マ クグロウン・シニア(Lamont D. McGlown, Sr)
そして、父親が子供と一緒に本を読むプログラムに関わったある図書館司書は、こう語りました。
ですから私ができる唯一のことは、皆さんに、思い切って同じようなプロジェクトを皆さんの国でもやってみてくださいとお勧めすることです。そこから得られるものを考えれば、やるだけの価値があります!
ありがとうございました。
図書館司書のコメント
「(それは)関係者全員にとって、プラスの経験だった。この人たちと一緒に活動できて、とても嬉しかった。彼らは他の受刑者たちにとって、素晴らしいお手本である。彼らが示してくれた熱意と、創造性、そして不断の努力は、周りの励みとなっている。自らの心の奥底まで探りながら、彼らは文学を共有する力を通して、子供たちへと手を差し伸べてきたのだ。」
メアリー・ヴェルノー(Mary Vernau)
本発表の要綱の英語原文はこちらに掲載されている。
"Breaking Barriers with Books": Connecting Incarcerated Fathers with Their Children
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