4.自由を活かすシステム
上に指摘したように、デンマーク社会は比較的に自由度の高い教育システムをもち、それはオルタナティブ教育の発展にとって順境であるといえる。しかし、その背景には、以下に述べるような、自由をプラスの方向に活かすテンションが作用しているように思われる。それが補助金であり、補助金を得るための監査であり、学校評価のシステムである。
1)補助金
独立学校の予算の7割は政府からの補助金であり、3割は親からの授業料等による。補助金を受け取るための条件は次のとおりである。
- 非営利組織であること
- 学校以外の人物や組織に支配されるような組織ではなく、独立した組織として利益が学校自体に当てがわれること
- 建物と土地とがひとまとまりであること(分校をもたないこと)
- 最低5人の理事会をもつこと
- 理事は無償で働くこと
- 教育活動に責任をもつ教師のヘッドがいること
- 国と独立学校の労働団体との間には就労条件に関して一定の同意がなされており、すべての教師がこの就労条件に関する規定に従うこと
- 最低28人の生徒がいること(1年目に12人、2年目に20人、3年目に28人になればよい)
出典) Henrik Koeber. The Danish Independent Schools and the State Subsidies to the Schools (EFFE: The European Forum for Freedom in Education 2000年度会議配付資料). 2000.
補助金を受け取っても、授業料等の一部は親が負担する。例えば、筆者が訪問したファーボルグ市郊外にあるエンガーベ・フリースコーレでは、月額として585クローネ(約7,800円)をどの親も支払っている。このフリースコーレの学校予算の内訳は、政府からが71%、親からが17%、その他(寄付やバザー等からの収入)が12%であった。支出の方は、教師の給与が56%、託児所の運営費が11%、教材費が10%、建物の管理・維持費が10%、事務費が2%、その他が11%であった。学校によって授業料は異なるが、概して地方は安く都会は高い。地方によっては400クローネのところもあれば、都会ではその2倍のところもある。また、託児所をもつような独立学校では、託児所に対する市からの補助金はないので、別途800クローネほど支� �う学校もある。なお、補助金の算定方法は、タクシメーター・システムという独自の方法が導入されている。これは公立校とのバランスを踏まえた独自の算定法である (13)。
2)独立学校の教育評価および経営の監査
市民の市民による市民のための学校づくりが日常感覚で行われているデンマークでは、学校の評価はどうなっているのであろうか。先に述べたように、創設時には児童・生徒数など以外に認可されるための厳しいハードルはないが、公的資金が投入されると、それなりの監査が入る。ただし、監査といっても、アメリカのチャータースクールのような微細に入る監査ではない。つまり、すべての独立学校には親の会があり、彼(女)らが監査役を外部から選び、数ページの報告を年に1度行ってもらうのである。この監査役には、親によって選ばれるかぎり原則的に誰でもなれるが、実際には図−2のような職業の人物が選ばれている。
出典)Dansk Friskoleforening Arsberetning 2000. 2001.
適当な人物が周囲に見つからない場合は、市(地方自治体)に監査を代行するように依頼することができ、実際に市に依頼する学校は2割近くある。選ばれた人物は年間数日から10日ほど学校を訪れ、最低限の科目が行われているか否か、経営的に安定しているか否か、規定の通学日(年間200日)が守られているか否か、等々について評価する。こうした訪問の後、報告書をつくり、教育省や市当局ではなく、毎年開かれる父母総会(食事や合唱も兼ね、討議は4〜5時間に及ぶ)および理事会に報告する。その報告書はせいぜい数ページのもので、それほど専門的でない場合もある(フリースコーレの監査報告書例については資料1を参照)。
デンマークでは長年こうした親密的ともいえる評価が行われてきたが、近年、専門的にするように政府からの働きかけが見られる。たしかに選ばれた監査役にも、どのような報告書を作成してよいのか皆目検討がつかないという戸惑いもあり、政治家の中には教育水準を低下させないためにより専門的な監査を行うべきだという主張もある。こうした声を反映して、2001年、監査のためのガイドラインがはじめて作成された (14)。
監査の結果、十分な教育が行われていないという指摘がされた場合、改善の要請を監査役は学校に対して行い、場合によっては市当局に通告することになっている。さらに改善が必要であると判断された場合は、教育省が特別監査を実施することができる。市当局がアクションを起こすケースは決して多くないが、最近は移民の学校に対してなされる場合が増えている。しかし、教育省による監査のレベルにまで至ったケースは独立学校法が制定された1992年以来、10件しかない。そのうち5件は結果が出ており、バイリンガル・スクール(デンマーク語を母語としない移民の学校)1校のみ閉校となったが、4校は改善され、存続している。残りの5件は審議中である。要するに、この10年ほどで監査の結果、閉校になったのは1校 のみで、例外中の例外であるといえる。つまり毎年経営上の問題でつぶれる学校は数校存在するが、教育内容が問題で閉校になる学校は皆無に等しいのである。また、エフタースコーレの場合も、過去10年間で3校が閉鎖されたが、いずれも経営難の末に閉校した類である(うち2校はフェロー諸島などの僻地のために生徒減で閉鎖に追い込まれたケースであり、もう1校は経営困難校のため近隣のエフタースコーレに生徒が流れ閉校したケースである)。
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